ダ・ヴィンチ×ほぼ日刊イトイ新聞共同企画 中島みゆきさん、おひさしぶり。 ややこしくておもしろい、歌をつくるということ。
アスリートとして自分を鍛えながら。
中島 特に「夜会」のときなんかそうですけれども、
“書いてる中島さん”は
“歌う中島さん”のことを
あんまり気遣ってないときがありますね。
で、それが入れ替わって、
今度は舞台上の中島さんになったときに憤りますね。
「なんだこれは?!」って。
「なんでこんなものわたしが覚えなきゃなんないんだ!」
って。一人で喧嘩してます。
(「夜会」とは中島さんが1989年に始めた、
 通常のコンサートとはちがう形式の音楽劇のことです)
糸井 前にぼく、「夜会」の楽屋を訪ねたときに、
真っ先に訊いたことがあって。
寝そべってスタートしたときが
あったじゃないですか。
中島 2回目ですかね。はいはい。
糸井 始まったら、寝そべったまま
歌い出すからびっくりして、
なんですかあれは? って訊いたんです。
そしたら、
「鍛えたのよ」って言ったんですよね。
中島 もっとつらかったのは、
「2/2」(にぶんのに:夜会の公演名です)
のとき。
あれはもろ寝てましたからね。
あれ? 他にもなかったかな?
糸井 結構ありますよ、その後も。
中島 こないだの「24時着 00時発」もそうですね。
あれは一番しんどかったー!
糸井 アスリートとして自分を鍛えていかないと
あんなことできないでしょう。
中島 ですね。
糸井 呼吸からなにから。
中島 うん。やっぱりね、体力しだいですね。
そう思うと体力仕事だわねぇ。
糸井 そういうときって、
どっちの中島さんなんですか?
作り手の方が「ちゃんとやれよ!」
って言うんですか。それとも、
舞台を作る演出家の中島さんなんですか、
歌手の中島さんなんですか、
はたまた“意地”なんですか?
中島 書くときの中島さんはねえ、
「これぐらいやれるでしょ、
 やってもらいましょ」
と思って書いてるんだけどね。
自分のことじゃないから。
糸井 その中島さんは、
書いてるときに歌わないんですか?
中島 あ、歌ってますけど、
でも、寝そべってはいないですからね。
だから、その後ですよ、
演出の中島さんが
「寝そべったらいいんじゃない?」
って言うんですねぇ。
糸井 きついこと言いますねえ!
中島 ねー。
「寝そべってみて、中島」
って軽く言うんですよ。
そしたら歌う方の中島さんがやってみて、
「寝そべって歌ってみろよ、おーい!」
って言うんですよね。ぶはははは。うーん。
糸井 はあー、厳しいことしてますねえ。
中島 結構後悔するんですけどね。
糸井 それは、サドですかマゾですかって
訊きたくなるね。
どっちも自分だもんね。
中島 どっちもねえ。
でもね、技術不足っていうのもあるんだなあ、
ってしみじみわかったことがあって。
なんのときだったかな、
セリフがなかなか覚えられん! っていうんで、
倉本聰さんにこぼしたことがあるんです。
何か覚える技術があるんですか? って。
そしたらね、
「ちょっと見せてみな、
 ‥‥バカだねえ、
 こんな覚えづらい本書いちゃって」
って言われたんです。
糸井 はぁー!
中島 「覚えやすい台本ってあるんですか〜〜!!」
ってね。目からウロコがぼーろぼろ。
糸井 なるほどねえ。
中島 脚本家さんは愛情を持って
覚えやすく書いてあげるということができるんだ!
わたしにはその技術がないんだ! と。
糸井 それは、出身地が違うからじゃないですか。
つまり、‥‥同じ北海道っていう意味では
出身地は一緒かもしれないですけれども。
中島 あははは。
糸井 倉本聰さんはテレビからの人ですから、
映像を想定してますよね?
中島 してますね。
糸井 みゆきさんは歌う人ですから、
映像を想定してなくても作れますよね。
中島 してなかったですね。
糸井 非常に観念的なことを歌ってますもんね(笑)。
中島 そうなんです。
なのに、ついでに動いたら、
ってとこにいくんで(笑)。
糸井 だって、“時代は巡る”って絵はないですよ(笑)。
中島 あははは。どういう動きすりゃいいですかねえ。
糸井 覚えにくい台本になるに決まってますよね。
それは観念的なことですから。
中島 はいはいはいはい。
糸井 つまり、なんて言うんだろう、
言葉の遊びじゃないんだけども、
微妙に細い道をたどっていきたい、
っていう日もありますよね、観念って。
この路地まで一緒に来てって言うときには、
同じ言葉の繰り返しもあるし、
助詞をひとつ変えただけの場合もあるし。
そういうのお好きですよね。
中島 でも、ややこしいことは
なるべくしないでおこうと
最近反省してるんですよ。
自分で歌うとき苦労しますから。
と、言いながらやっちゃうんですけどね。
 

(つづきます!)

2007-09-07-FRI
前へ   次へ