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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

17. 時間をかける、ということ。


番組は、誰かに勝つために
作るというものではないとしたら、
テレビに関わる人間は、何を目指して作る?

膨大な時間を費やして作られる
「テレビ」の作られ方についての、お話です。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

三宅 そう言えば、糸井さん、
勝ち組とか負け組とかいう分けかたを、
どう思いますか?
糸井 負け組に入りたい人はいないんだし、
みんな、ひどい目には遭いたくないんですよ。
だから、そもそも、その分けかたが
違うんじゃないかなぁとは思います。
三宅 ぼくも、キライな言葉なんです。
別に勝負じゃないんですよね。

勝てば会社から
金一封が出たりしたときもあって、
それはありがたいんですけど、
あくまでも金一封は方法論であって……
金一封そのものが
目的になってしまうところは
納得できないなぁ、それは
かつてのように戻さないといけないなぁ、
という気持ちはあります。
土屋 ぼくらも、
四冠王を取ると
社員全員が一万円とか、
もらっていたわけですよね。

だけど、そのケツの叩きかたが
まちがっていたということを反省しないと、
きっと、次が見えてこないだろうなぁ、
とは、たしかに思うんです。

「目的が別になってしまっている」
ということで言えば、いまぼくは
イベントをやっているわけですが、
どうも、番組絡みのイベントのほうが、
そうではないコンテンツのイベントよりも、
お客さんがスーッと集まってくるわけです。

だけど、その人たちの顔を見ていると
「あ、テレビでやっていることが見られた」
という満足感だけなんですよね。
これは、コワイと思いました。

「あ、テレビに出てる人だよ」
そのこと自体は、
別におもしろいわけではないですよね。

おもしろいこととは別なのに、
「テレビに出ている」というだけのことが、
価値があるように見られている……
このへんは、
なんとかしないといけないなぁと思うんです。
糸井 フジテレビが、
サルティンバンコをやっている
冒険というのも、すごいなぁと思います。

シルク・ド・ソレイユという
ブランド集団だし、
まちがいなくおもしろいですから。
三宅 ただ、ぼくは
あのイベントは作れないなと思うんです。

たしかにすごいなぁとは感じます。
アメリカでやっている
『O(オー)』とかも、すごい。

だけど、笑いをやっていると
「これは、演者の家族が見にきたときに、
 絶対に寂しい思いをするな」
と思っちゃうんですね。

「わたし、どこどこの
 右から3番目に出てるから」
と言ったって、
あれだけ飛びまわっていると、
わからないですよね。

あれは演者泣かせだなぁと……。
舞台では、やっぱり、
「あの演者さんがおもしろかったね」
と言って帰ってもらいたいと思うんです。

笑いの舞台では、
「あの演出が良かったね」とか、
「あそこで明かりがついたね」とは
絶対に言わないですからね。
それを言われちゃうと、
逆に、だめだなと思ったり……。
糸井 それは明らかに、三宅流ですよね。
三宅 いや、サルティンバンコは、
やっぱり、演者がかわいそうですよ。
糸井 シルク・ド・ソレイユを
ぼくがスゴイと思ったのは、
廃棄物になっていく
一流のスポーツ選手たちの
受け皿なんだ、というところです。

こんなにも人が認めて
拍手を贈られた人たちが、
金メダルの候補じゃなくなった瞬間から、
ただのスポーツ解説者になってしまう……。

しかも、全員が解説者にはなれないとすると、
やっぱり受け皿が必要ですよね。
ソフトの循環をやるというアイデアには、
感心したんです。

さんざん、小さいころから鍛えてきた時間を、
そのまま「身体能力」という財産として
使えるのは、おもしろいなぁと思いました。

最近、
時間をかけているということで言うと、
NHKのものづくりのすごさも、
認めるべきなんじゃないか、
と思いはじめているんです。

『シルクロード』だのなんだのって
作っている人たちの時間のかけかたって、
ほんとうに、ものすごい……。
三宅 わかります。

動物のドキュメンタリーでも、
わけのわかんない小さな蜂を、
ずーっと追いかけていたりするのを見ると、
これはすげぇなと思います。
土屋 日曜にやっている『ようこそ先輩』の
重松清さんの回が単行本になっているので、
それを読んだんですけど、
本の最後に、ディレクターやスタッフの
動きが書いてあるんです。

その時間の使いかたって……
何日か前から「それしか」してないんですよ、
そのスタッフたちは。

一本の三〇分番組を作っているのに、
二ヶ月前に連絡を取り、
重松さんと何回打ち合せをして、
と書いてあって……。

で、生徒の家、
ぜんぶ回ってるんですよ、スタッフが。

「おまえら、
 三〇分作るのに何日かけてるんだよ!」
そういう時間のかけかたしてるんですよね。
だけど、だからおもしろいんですよね、
あの番組は。
糸井 そのへんを、仕事としてどうするかが、
もしかしたら、テレビがこれから
考えることかもしれないとぼくは思うんです。

ワインだってそうじゃないですか。
時間がなかったら、
ワインにならないわけで……。
NHKは、武骨だけど、
そこの時間を見積もる力は、
やっぱりあると思うんです。

ただ、テレビが持っている
「出し抜け!」という
勢いの宿命もなければいけないんだけど、
それについても、NHKは、実は
うまくジョイントできていると思うんです。

地震があったら
NHKをつけているわけですから、
急な動きにも対応できていますよね。

民放の人たちは、
「あ、上からこういうの頼まれたぞ……
 やってみせます!」
という走りかたが得意なんだけど、
そうではない作りかたも、
あったほうがおもしろいですよね。
三宅 ただ、よくさんまさんが言いますけど、
「これはもう十年間あたためた企画です」
というのは、テレビでは絶対にだめだと。

それは、自分であたためすぎて、
もう溶けちゃっているとか……。

やっぱり、テレビや笑いの究極は、
生放送にあるんじゃないか、

とは思うんですよね。

いまは、
そこに戻っているんじゃないかなぁ。
糸井 ええ。

一方では、

「『ようこそ先輩』のスタッフ、
 1か月も、
 ロクに他の仕事をしてねぇじゃないか!」

そういう怒りを呈すチームもいれば、

「馬鹿野郎! こっちは一軒一軒まわってんだ!」

そうやって怒りかえすチームもいる。
その両方入れておけない会社は、
もう、だめなんじゃないかなぁ。
三宅 そうですね。そのバランスですよね。
糸井 アナウンサーが育つ何年間は、
「すぐは無理だろう」とか見ておけるわけだから、
きっと、番組づくりでも、局としての
促成栽培以外の方針があるといいですよね。
三宅 昔、ドラマの作り手は
いいなぁと思ったことがあるんです。

彼らは、
一クールなり二クールなりが終わると、
休みなわけですよね。

もちろん、かかりっきりになると
すごく忙しいけれども、休みの間に、
いろいろと考えることができるんです。

実は、バラエティでも、
そういう番組を
やったほうがいいと思ってたんです。

バラエティの場合は、
二クールぐらいは
やらないといけないだろうけど、ただ、

「さんまさんが二クールやったら、
 次はダウンタウンが二クールやって、
 そのあと誰?」


そういう、
違う判断のできる枠があるといいなぁ
とは思うんですよね。
土屋 そうですね。それは必要でしょうねぇ。
三宅 そうすると、
いい刺激があると思うし、
企画が当たったら、
パート二をどこかでやれるし……。
糸井 最高です、それは。
三宅 そういう、テレビの枠のシステムを変えないと。
糸井 要するに、
グランドプロデュースがあると、
もっとおもしろいんですね。
三宅 そうなんですね。
そこはまぁ、いろんな営業とか
なんかの問題もあって、
できないのかもしれませんけれど……。
糸井 こうやって話していると、
いつまでもおもしろいですね。

つくづく、テレビ局のでかさを感じます。
ずいぶんでかいなぁ。
三宅 でかくなっちゃったのか、
実際にでかいのか……。
糸井 いや、でかく見せないと商売にならないんですよ。
きっと、テレビ創成期から、
いろいろしたんでしょうね。
土屋 そうでしょうね。
じゃないと、あんなふうに、
一五秒のCMにスゴイお金も取れませんから。
  (次回に、つづきます)


今日のひとこと:

「昔、ドラマの作り手は
 いいなぁと思ったことがあるんです。
 彼らは、
 一クールなり二クールなりが終わると、
 休みなわけですよね。
 もちろん、かかりっきりになると
 すごく忙しいけれども、休みの間に、
 いろいろと考えることができるんです。
 実は、バラエティでも、
 そういう番組を
 やったほうがいいと思ってたんです。

 バラエティの場合は、
 二クールぐらいは
 やらないといけないだろうけど、ただ、
 『さんまさんが二クールやったら、
  次はダウンタウンが二クールやって、
  そのあと誰?』
 そういう、
 違う判断のできる枠があるといいなぁ
 とは思うんですよね。
 そうすると、いい刺激があると思うし、
 企画が当たったら、
 パート二をどこかでやれるし……。
 そういう、テレビの枠のシステムを変えないと」
             (三宅恵介)

※このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-23-THU

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