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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

9. 自分を好きでいるすばらしさ。


今日からは、かつてこのコーナーで、

「テレビマンたちが
 守りきれていないテレビを、
 明石家さんまさんが
 守ってくれていると言いますか……。
 どうしてもぼくたちが
 『一円でもたくさん稼ぐ』
 と言わなければならないところを、
 『さんまさんが言うんだから
  しょうがないじゃん』
 という言葉で守ってくれている」
 
とまで語られた、明石家さんまさんのお話なんです。

長い間、ディレクターとして一緒に仕事をしてきた、
三宅恵介さんが、静かに、話してくれました。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 ……さて、ビッグ3の最後の
さんまさんについては、
すでにさかんに話に出てきますけど、
「黄金期が、いくらでもある」
というところがすごいですよね。

いまも、長く頂点から降りてないですが。
三宅 あのかたは、やっぱり、
変わらないから、いいですよね。

ほんとにテレビを好きだし、
いちばんいいのは
「自分をいちばん好きなところ」
ですよね。そこが変わっていないから、
ずっと、トップでいられるんでしょう。


「自分を好きでいること」
って、簡単そうだけど、
いちばんむずかしいことだと思うんです。

さんまさんは、そこがあるから、
自分がどう映っているかをチェックするし……
というスタンスでいられるんでしょうし。
糸井 自分を好きでいられる人って、
いいですよねぇ。

さんまさんの場合は、
もう、こってり大好きで、
腹いっぱい、自分を食べたいというか。
三宅 やっぱり人間、
「自分を好きでいること」
が、いちばん大事なんですよね。
糸井 肯定ですよね。

さんまさん自身も
「自分を好きになるといいぞ」
というメッセージを、よく出してますし。
三宅 出してる、出してる。
糸井 さんま先生のすごさもそこで、
出てくるガキどもに
「おまえも自分を好きになれ」
とメッセージを告げているんですもんね。

三宅さんも、そういうところは、
ずっとおつきあいになっていると、
やっぱり、
影響を受けているんじゃないですか?
三宅 影響を受けてます。

本人にそう言うと
イヤがるかもしれませんが、
やっぱり、萩本欽一さんに
よく似たところがありますよね。

話していると、ぜんぶが前向きで、
こちらがエネルギーを
もらってしまうようなところがあるんです。

そこでパワーに負けてしまうと、
カラダを壊しちゃうんですけど……。
糸井 その話、リアルだなぁ。
三宅 このあいだ、
久しぶりに大将(萩本欽一さん)に
お会いしたら
「大リーグの監督をやりたいんだ」
とおっしゃるんです。

「昼間に、イチローの試合を見ていると
 監督がバカでしょうがない」と。

ワンアウト満塁でイチローが
ダブルプレーになったあとに、
監督が、同じ場面で
イチローを交替したことがあったそうです。

「イチローみたいに腕のあるヤツは、
 二度もおなじ失敗をしない。
 これを替えてしまったら、
 替わったやつがダブルプレーになるぞ」

そう思ったら、ほんとにそのピンチヒッターが
ダブルプレーに倒れてしまったんだそうです。

「それに、三打数三安打のあとに
 ヒットが出ることなんて滅多にないから、
 オレならそこでイチローをひっこめて、
 四割打者を作る」

テレビを見ながらでも、そういうことを、
常に考えていらっしゃるらしくて、
そういう話を聞くと
「大将、変わってないなぁ」と思うわけですね。
糸井 そんなことを、考えているんですか。
三宅 テレビをやりはじめたときも、
そういう発想をなさっていたんです。

「一歩下がって、
 そこで跳ねないと次へ行けない」

と考えるかたなんです。

「テレビというまだわからない場所に、
 自分だけで乗りこんでもしょうがないから、
 まずは、作家を作ろう」

それでパジャマ党というものを作って、
そいつらと一緒にやっていけば、
なんとかおもしろいことが
できるだろう、とか……。
糸井 トランポリンを、先に作るんですね。
三宅 はい。

「どんどんやっていったら、
 自分が上になっちゃって、
 下がいなくなっちゃったんだ」

そうおっしゃるんです。
だから、これは一回、辞めないといけないな、
とか……そういう発想をなさるんですね。

何年か前に作った映画の
『欽ちゃんのシネマジャック』も、
一本三百円で見られるようにして、
五本立てをすべて見ると千五百円と……
結局は大将は赤字になったのですが、
その考えかたも、
すばらしいなぁと思っていました。
糸井 さんまさんが、
番組をやるかやらないかの決断についても、
『明石城』があるおかげで、
よく見せてもらっていますけど
「ああ、この人は
 こういうことを考えているんだ」
ということが見事によくわかるんです。

長続きするか、いま重要かどうか、
オレの動機が続くか、と……
いっぱい考えて、
どれをやらないかを決めているわけで。

さんまさんは、あれだけ忙しくても、
おそらく、依頼の量からすると、
すごく仕事を減らしている状態ですよね。

そこの「やらない」という
企画者としての動きも、
さんまさんを支えているなぁと思うんです。

さんまさんの戦略をまず感じるのは、
コマーシャルの数の少なさなんです。

バンバン来ているに決まってるけど、
それをやるかやらないかを決めるのは、
企画を考えること以上に重要なことで……。
三宅 もちろん
テレビもそうですけども、
生き方のプロデュースや、
自分のプロデュースを、
いちばん知っていますよね。

明石家さんまの大ファンでありながら、
同時に最高の
セルフプロデューサーでもあるんですね。
そこがすごいところだと思います。

何の関係もない仕事で、地方で、
テレビもまわるわけでもないような舞台でも
「この人がやっているなら、そこは行く」
と損得なく行って盛りあげてきますからね。
糸井 鶴瓶さんも、
一銭にもならない仕事を
さんまさんにお願いしたら
「兄さんの顔が立つんでっか?」
「立つ」
「行きます」
「内容は……」
「いいです、いいです、行きます」
そういうことがあったって、
こないだおっしゃっていました。

誰かに相談もしないんですよね。
三宅 していないです。
糸井 すごいなぁ。
  (次回に、つづきます)


今日のひとこと:

「さんまさんは、変わらないからいいですよね。
 ほんとにテレビを好きだし、
 いちばんいいのは
 自分をいちばん好きなところです。
 そこが変わっていないから、
 ずっと、トップでいられるんでしょう。
 自分を好きでいることって、簡単そうだけど、
 いちばん、むずかしいことだ、と思うんです。
 いちばん大事なことでも、あるでしょうし。
 さんまさんは、そこがあるから、
 自分がどう映っているかをチェックするし……
 というスタンスでいられるんでしょう。
 話していると、ぜんぶが前向きで、
 こちらがエネルギーを
 もらってしまうようなところがあるんです。
 そこでパワーに負けてしまうと、
 カラダを壊しちゃうんですけど……」
               (三宅恵介)

※このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださると、さいわいです。
 どのメールも、すべてじっくり拝読しますし、
 つい、おおぜいと分けあいたくなるような
 メールの感想などは、「おもしろ魂」連載中に
 ここで、ご紹介させていただくかもしれません。


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2004-09-13-MON

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