man
おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

12. いい番組が終わっちゃう?

日本テレビの土屋敏男さんは、
「おもしろい番組」と「広く伝える番組」について、
前に、次のようなことを書いていらっしゃいました。

「2年半ほど前に作った『笑いの巨人』最終回の収録、
 萩本欽一さんがステージから降り、客席の何人かに
 『なぜテレビを見るんですか?』
 とインタビューをしました。それに、女子高生が
 『……え? ……ヒマつぶしでしょう?』
 と答えたことは、どうしても、ずーっと忘れられない。
 日本人は一日平均6時間テレビを見ている、
 という調査があったように思いますが、本当は
 テレビをつけているという方が正解なんだろう、と
 それ以来、冷静に受け止められるようにもなっている。

 ただ、こんな情景を想像する。
 何となくつけていたテレビが、何かを発している。
 家事をしながら、新聞を読みながら、
 見るともナシ、聞くともナシでついていたテレビ。
 手を止めて、座り直して……
 いつの間にか夢中になって見ている。
 そんな番組を作れたら、
 という夢も相変わらず持っている。
 『ゆるく、広く』と『刺さる、狭く』は
 うまい具合に両立して欲しいと思っていて、
 『刺さる、広く』だって
 絶対ないわけではないだろう、とも思っている」


「おもしろさ」と
「多くの人からたのしまれること」は、
共存するのかどうかについての、この本音を皮切りに、
番組づくりの決断についての会話を、
今日も、どうぞ、おたのしみくださいませ。

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 やっぱり、
テレビの話はおもしろいなぁ。

ぼく、最近また、
テレビを見ることを
おもしろがりはじめているんです。
土屋 糸井さんが、「ほぼ日」で
こないだおもしろいと書かれていた
フジテレビの『あかるいニュース』は、
残念ながら視聴率が悪いですよね、いま。
糸井 それは、案の定、そうですね……。
土屋 ぼくは、
まだ見てないんですけど、
まわりからおもしろいという
評判を聞くんですよね。それで
「また、
 いい番組が終わっちゃうのかな?」

とは思うんです。
糸井 三宅さんは、
『あかるいニュース』は見ていますか?
三宅 はい、こないだ。
糸井 あれ、ぼくにとっては、
おもしろいんです。
視聴率は悪そうだけど、作る側が
「これは好きなんだ!」
という感じで作っているので、
期待していたんです。
三宅 中身はいいなと感じました。
ただ、ぼくは、
『あかるいニュース』という
タイトルがよくないなと思いました。

直球だから。
糸井 なるほど!
三宅 これも大将に教わったんですけど、
「逆」にすべきです。

例えば
『暗くないニュース』とするだとか……
そのあたりを、どう伝えるかだと思うんです。

『あかるいニュース』
というタイトルで、
そのまま、あかるいニュースを
扱ってはいけないでしょう、と。

「おもしろい話なんですけど」
と芸人を紹介してしまうと
つまらないでしょう?
「おもしろいかどうかわからないけど、
 ちょっと見てくれませんか」
と謙虚なところがあるほうが、
おもしろがってくれますもんね。
糸井 「いい番組らしさ」
がありすぎるんですか。
三宅 正論は正論であっていいんですけど、
それをずっと聞かされると
イヤになっちゃうところがあるから。
あの番組は、そこの
持っていきかただけだろうな、
とは思いました。
糸井 なるほどなぁ。
確かに、番組の説明を聞いたときに、

「世の中、
 暗いニュースばかりじゃないですか。
 それはイヤですよね?」

そのとおりだとは思ったんですが、
今はそういうことは前提だから、
話しあう必要はないとも言えるんです。

ただ、実際に行ってみたら、
おもしろかったわけで……
続いてほしいなぁと思います。
土屋 最近の企画書や番組の説明では、
「世の中、
 暗いニュースばかりじゃないですか……」
というふうに
言わないんじゃないかと思うんです。

「今は、世の中がこうなっているから
 この番組なんです」
そういう問題意識を、
もう持たなくなってしまった企画が多い。

だから、見てはいないんですけど、
『あかるいニュース』という企画は、
春の新番組の中では
印象的で気になっていたんです。

そこの、
「今はこういう時代だから」
という点ではがんばっていますよね。
最近のテレビの作り手たちは
そういうのがナシになって
「何が当たるの?」
「何が外さないの?」と
言ってしまっている
スタート地点から
やってしまっている気がするから。

ただ、ほんとうは、
三宅さんがおっしゃったように、
もうひとつ先に行くことが
必要なんでしょうけど。


自分でも、ついこのあいだまで
日テレの編成部長をやっていたときには、
「何が外さないかな?」
と思っちゃったんですから。
糸井 編成部長をやっているときは、
そう思うんですか?
土屋 後半の方では、そうでしたね。
三宅 会社ってすごいもので、
立場的に、そうなるんですよね。
土屋 ええ。

「九年連続で四冠王を取っているから、
 十年連続で四冠王を取るのが
 おまえの仕事だよ」


そう言われると、
そこは、やり遂げたくなっちゃうんです。
糸井 課題があれば解きたくなる?
土屋 ええ。

そうすると、
「おもしろい企画」よりも、
「外さない企画」を選ぼうとする自分が、
やっぱり、1年前にいましたから。

それは、
今考えると自分の中が
バラバラになっていく気がして
つらかったんだと思います。
三宅 番組で数字をあげるとか、
イベントで何億儲けるだとか、
わけわかんない時代ではありますよね。
地上波だBSだCSだと広がっている──
結局のところ、どうしたいのか?

「この期間はこれで行く」
という編成方針がポンとあれば、
しかたがないと納得できるけど、
かつてと同じように
「視聴率が二ケタ取れないとダメだ」
とか、そういう時代ではないですから。

今日の仕事論:

「『あかるいニュース』の
 中身はいいなと感じました。
 ただ、ぼくは、
 『あかるいニュース』という
 タイトルがよくないなと思いました。
 直球だから。
 これも大将に教わったんですけど、
 『逆』にすべきです。
 例えば
 『暗くないニュース』とするだとか……
 そのあたりを、どう伝えるかだと思うんです。
 『あかるいニュース』
 というタイトルで、
 そのまま、あかるいニュースを
 扱ってはいけないでしょう、と。
 おもしろい話なんですけど、と
 芸人を紹介してしまうと
 つまらないでしょう?
 おもしろいかどうかわからないけど、
 ちょっと見てくれませんか、と
 謙虚なところがあるほうが、
 おもしろがってくれますもんね。
 正論は正論であっていいんですけど、
 それをずっと聞かされると
 イヤになっちゃうところがあるから。
 あの番組は、そこの
 持っていきかただけだろうな、
 とは思いました」
             (三宅恵介)

※次回、3人は、番組制作で
 優先するべきことは何なのかを、
 「会社員としての制作者」
 という側面も見つめながら、語るんですよ!
 
 このコーナーへの感想をはじめ、
 テレビや、企画づくりについて思うことなどは、
 postman@1101.com
 ぜひ、こちらまで、件名を「テレビ」として
 お送りくださるとさいわいです!
 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
 あなたの感想や質問を、参考にしながら進めますね。


←前の回へ

インデックスへ

次の回へ→

2004-06-30-WED

man
戻る