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おもしろ魂。
三宅恵介さん土屋敏男さんと、テレビを語る。

5. おもしろさの基準

フジテレビの三宅恵介さんと
日本テレビの土屋敏男さんによる、
ものづくりについての鼎談、大好評です。
今日も「おもしろさ」のために
一歩でもにじりよっていく過程を
聞くとともに、
「大企業のなかで、
 おもしろさをどう追求してゆくか?」
という、現代の企画立案をする上では
逃げられない視点についても、
真正面から、話していただいています。

「おもしろさ」を基準にするためには、
節度が要ると、土屋さんは語ります。
今回もかなりリアルな話、ぜひお聞きください!

三宅恵介さんプロフィール
土屋敏男さんプロフィール

糸井 番組のロケをしている最中に
「クルマを止める」だの
「止めない」だの考えずに、もう、
「その敷地全体を止めている」
というような番組も、
撮りたくなるじゃないですか。

きっと、
そういうことをするために、
土屋さんは、いま
別の場所に行かされているんですよ。

サッカーって、
ワールドカップでもオリンピックでも、
何度も予選があって、何度でも
「首の皮一枚!」
と言いながら負けるじゃないですか。
「え? もう出られないと
 決まったんじゃないのか?
 また天王山かよ!」

ただ、
そういうシステムにしたほうが、
明らかにいっぱい稼げますよね。
「こうやると、何度でも遊べるじゃないか!」
と考えたFIFAがいるんですよね……。
三宅 なるほど。
何回も試合があって、
客も、テレビ中継もある、と。
糸井 そういうことを考える人っていうのは、
昔はいなかったんだと思うんですよ。
でもいまは、いるんですよね。

例えば……
これはまったくの個人の憶測なんだけど、
前回のワールドカップの
クジ引きをした時だって、絶対に
「日本に有利なクジ引きをする」
と仕組んでたんじゃないか?とか(笑)。
土屋 (笑)ははは。
糸井 ぼくの中では、もう勝手に
「そうしたに違いない」
と決めつけているんです。
だって、よくできすぎてるもの!

こないだのバレーボール女子も、
よく考えると、なんかおかしい! 
弱いのが四チーム、
強いのが四チーム集まっている……。

だけど、そのおかしさが、
バレーボール全体の人気を
底上げする力になれば、
オッケーかもしれないという判断も、
あったかもしれないのか?とか、
思わないことはないんです。

金儲けが好きな人にも、
お楽しみが好きな人にも、
選手になりたい人にも、
みんなに喜ぶ大ウソをついている人が
どこかにいるのかもしれないけど……
でも、「その役をやる人」って、
まだ日本に育ってないんだと思う。

そう考えると、欽ちゃん式に
「車を止めないでやるのを
 どうしたらいいか?」
っていうのを一方で考えつつも、
「この映画のために
 すべての道路を閉鎖して、
 山手線の中に
 クルマを一台も絶対入れないようにしよう。
 東京都民全体に迷惑をかけながら、
 この作品を作ろう!」
とかいう日があっても、
いいと思うんです。

その両方ができて、
「ソフト」っていうものが
ほんとにおもしろくなるから。

だから、三宅さんのほうには、
人を止めない番組を作る役をしてもらって、
土屋さんには、東京都内に
車1台も入れさせない仕事をやってもらう──
ぼくが神さまなら、
テレビづくりを、そうふりわけると思う(笑)。
土屋 ただ、スポーツの中継だけじゃなくて
テレビ全体がそうだけれども、
それこそさっきの
「畑がやせる」という話じゃないですけど、
「もう明日はお客さんがこなくていいから、
 今日さえ、
 コンマ1%でも数字があがればいい」
みたいなことを、けっこう、
やっちゃっている感じはあるんです。
三宅 バラエティの作り方で言うと、
トータルとして
試合を組むとかいうことは、
考えられないんですよね。

「とりあえず、来週どうするか?」
ひょうきん族は、それが、
結果として、八年続いたわけでして。
糸井 八年、やったんですか。
三宅 最初から
「八年やってくれ」
ではできないことなんです。
「とりあえず、来週どうしよう?
 今週おもしろいあれを、
 次もつなげよう」
そういう作りなんです。
ちょっと外で引いて見て、
トータルで考えようという意識は、
現場にはまったくないですよね。
土屋 ないです。
糸井 そこは、
誰か土屋さんみたいな人に、
任せっきりにした形をとらないと……
現場がトータルのことまで
気づかっていたら、
たぶんビビっちゃうと思うんです。
三宅 今の若い連中は、
割とトータルな線を引けるんです。
それが、すごいのか、
かわいそうなのかはわかりませんけど。
糸井 「両方できる」っていうのは、
あんまり
いいことじゃないような気がする。
土屋 ただ、同じ
「トータルを考えていない」
ということで言っても、
今のスポーツ中継の作り方と、
ひょうきん族の作り方とは、
ずいぶん違うと思うんです。

ひょうきん族の作り手たちには、
「もう今週もいっぱいいっぱいで作った。
 来週ももっとおもしろいものを作ろう!」
と、「おもしろい」という尺度というか、
節度が、ちゃんとあったと思うんです。
ところが、今は
「おもしろければいい」という
作り手の節度みたいなものが、どうも、
薄まってきているんじゃないかなぁ、

と……。
三宅 それは、フジでもおんなじですよ。
制作から企画が出たときに、編成は
「これ、数字取れるのか?」
とまず聞きますよね。
事業部の人と、このあいだ
話したんですけど、
「この事業をやりたい」と言うと、
まず上が
「客、入るのか?」
というところからの話をしてしまう。
糸井 企画内容を話す前に、言いますよね?
三宅 ええ。
でもほんとは、上は
「それ、おもしろいの?」
「なんでやりたいの?」
と聞かないといけないと思うんです。


我々の上の世代は、
「じゃあオレがこうしておくからやれ!」
と言ってくれました。
当時は、フジが低迷していたときだから
言えたんでしょうけど、
そこから続いて好調になると、
今度はやっぱり守りに入るんですよね……。
糸井 「媒体の価値とは何ぞや?」
というところからすると、
今、三宅さんがおっしゃっていることは、
「儲け」の意味でもただしいんですよ。
三宅 うん。
糸井 「おまえ、それおもしろいの?
 つまんないの?」
「おもしろいです!」
上司が部下に聞いたときに、
部下がそう断言できるものばかり
やっていたら、媒体の価値は
どんどん上がっていくはずですから。

視聴率なんていうのは
振り落としていっても、
そのテレビ局の会社の価値は、
上がるはずなんですよね。
だけど、最近は
何が起きているかと言うと……。

「そうかもしれませんが、
 他人はそうは思わないから、
 わかってくれない人用に、
 視聴率という数字で
 見せなきゃならないんじゃないか?」

そうなると、
自分で自分の価値を
下げちゃうわけですよ。

ここまでなら、誰にだって
わかる話だと思うんですけど、
これが実際に経営会議で
そんなことを言いだしたり、
株主総会で、

「視聴率の面では不調ですけども、
 今、非常にうちはおもしろいです!」


と社長が言ったら……(笑)。
三宅 それ、言うべきだと思う。
その方が、絶対に正しいと思うんですよ。
糸井 「もう、うちはいま、
 断然おもしろいです!」
って言うべきですよね(笑)。

さもないと、管理の上手な人が
経営をやっちゃうことになる。
だから、まぁ何度も
言ってしまうんですけど、
土屋さんが変な場所にいることの
大事さを、実感するなぁ。
土屋 ただ、
「おもしろいことが大事なんだ」
と言う人って、だいたい
会社の中で不器用なんですよ。
糸井 (笑)そうかも。
土屋 会社の中で不器用な人が、
「おもしろいことって大事だよなぁ……」
とブツブツ言っているんです。
だけど、会社の中で
「ここに根回しして、
 こうしてああしてこうしたら、
 ものは動くぞ」
っていうような人の中には、
おもしろいことが
大事だと思ってない人が
けっこういるというか、
そうじゃないテクニックを
持っているというか。
三宅 そういう人に
「おもしろさって、
 人ぞれぞれ違うからね?」

と言われるんですよね。
糸井 でも違うんだよなぁ……。
そんなはずはなくて、
味に好みはあろうとも、
うまいものはうまいんですよね!
三宅 そうなんです。
「あるところから上」
のレベル、なんです。

今日の仕事論:

「『おまえ、それおもしろいの?』
 『おもしろいです!』
 上司が部下に聞いたときに、
 部下がそう断言できるものばかりなら
 媒体の価値はどんどん上がっていくはず。
 視聴率を振り落としていっても、
 そのテレビ局の会社の価値は上がるはず。
 だけど、最近は
 『そうかもしれませんが、
  他人はそうは思わないから、
  わかってくれない人用に、
  視聴率という数字で
  見せなきゃならないんじゃないか?』
 となりがちで、そうなると、
 自分で自分の価値を下げちゃうわけです。
 もしかしたら、株主総会でだって、
 『視聴率の面では不調ですけども、
  今、非常にうちはおもしろいです!』
 と言うべきなのかもしれません」
             (糸井重里)

※次回は、おもしろさを生み出す方法論を、
 三宅さん土屋さんが、真剣に語ってくれます。
 ちょっと、ジーンとするような話も登場です。
 
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 今後も、シリーズ鼎談として続いてゆく連載なので、
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2004-06-21-MON

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