数字は、自画像だった。笹尾光彦さんの「発見」 数字は、自画像だった。笹尾光彦さんの「発見」
第4回
五分と五分で付き合いたい。
──
笹尾さんのお話をうかがっていると、
奥さまのことが非常に気になります。
笹尾
かみさんのことを言うのは変だけど、
ほんと、おもしろい人だよ。
──
機会があったら、お目にかかりたいです。
笹尾
ぜひ今度、話をしてほしいな。
むちゃくちゃだから、しゃべり出したら。

かみさんは今年で74なんだけど、
ふだん、こういう作品をつくってる人で。
──
あ、奥さまもアーティストでしたか。
笹尾
来年(2018年)の暮れくらいに、
展覧会もやるみたい。

そんなだから、ぼくにも
はやく会社を辞めて絵でやっていけって、
ずっと言ってたんですよ。
──
おふたり、ほんと、仲が良さそうです。
笹尾
いやあ、何度も言ってるけど、
ぼくはバカにされてるだけだからねえ。

もう、大人の男がね、
ここまで怒られることってあるのかと。
──
出会ったのは‥‥?
笹尾
大学を出てから1年経ったころなので、
ぼくが23で、かみさんが21。

それからすぐに結婚しちゃったんでね、
「あんたの幸せ、私の不幸せ」
って言って、
不幸な彼女は、いつも嘆いていますよ。
──
笹尾さんが奥さまに宛てた絵ハガキが、
すごい数、あるんですよね?
笹尾
どうだろう、3000枚くらいかなあ。
──
3000‥‥って、すごすぎませんか。
笹尾
旅先でもどこででも、
ちょちょっとした絵なんかを描いてると、
心が落ち着くんです。

で、今ならメールするような事柄とかも、
日記みたいな感覚で、
ハガキに描いて送ってたんです、昔から。
──
奥さま‥‥愛されてるんですね。
笹尾
要らないって言ってるけどね、本人は。

「あんたからの数千枚の絵ハガキより、
 まだ見ぬ恋人から
 たった1枚のカードを、もらいたい」
とかなんとか言ってますよ(笑)。
──
あと、どこかで見たんですけど、
お父さまも日本画家でらしたそうですね。
笹尾
そうそう、父もね、50歳を過ぎるまで
松坂屋の宣伝部にいて、
アートディレクターをやったり、
コピーを書いたり、
ポスターなんかも自分で描いていたって。

山下清さんの展覧会の企画をしたりして、
お客さん呼んだりしてたみたい。
──
じゃ、50歳を過ぎてから
おつとめを辞めて、日本画家に?
笹尾
うん。
──
笹尾さんと一緒じゃないですか。
笹尾
そう、同じことしてるんですよ。

親父には反発してたりして、
あんまり好きじゃないって思ってたけど、
結局、同じことしてる。怖いね(笑)。
──
いつまで、ご活躍されたんですか?
笹尾
90まで描いてました。
──
うわあ、すごい。すばらしい。

じゃ、笹尾さんも90まで描くとなったら、
まだ10年以上もあるってことですね。
笹尾
実年齢的に言ったら、
ぼくの歳だとリタイアしちゃってる人が
多いと思うんだけど、
「画家年齢」としては、
まだまだ、40くらいのつもりだからね。
──
自分が、今まさに40なんですが、
最近、ようやく
わかることが増えてきたと思うんです。

と、同時に、
できていないことの多さも見えてきて。
笹尾さんも今、そんな時期ですか。
笹尾
そうです、そんな感じです。
──
だから若く見えるんですね、笹尾さんて。

人生の大先輩なのに、
いい意味で、チームの1メンバーとして、
フラットに付き合ってくださるし。
笹尾
自分でも、今、絵がすごくおもしろくて、
ありがたいことに、
いろんなチャレンジができていて、
これからやりたいこともたくさんあって、
毎日毎日、絵を描かなきゃなんない。

そういう日々で、楽しいんですよね。
──
伝わってきます、その感じ。
笹尾
だから、みなさんと精神的な年齢は、
あまり変わらないと思ってる。

自分は若いぞとも思っていなければ、
自分が年を取っちゃって
みなさんに敵わないとも思ってない。
だいたい同じだと、思ってるんです。
──
ぼくらも、そんな気がします(笑)。
笹尾
それに、一緒に何かをつくるのなら、
互いに「五分と五分」なわけだから。

そうやって、付き合いたいんですよ。
──
そういう、別け隔てのない考えかたを
自然に持ってらっしゃるところ、
笹尾さんは素敵だなあって、思います。
笹尾
チームを組んでやる以上、
メンバーそれぞれが全力投球しないと、
いい仕事は、うまれないでしょう。
──
そうですね。
笹尾
そのうえで、自分がやれることは何か。

そういうふうに思ったら、ぼくの場合、
「全力投球する」「手を抜かない」
「コツコツやる」しか、ないんですよ。
──
なるほど。
笹尾
ぼくの展覧会に来てくれる人、
ぼくの絵を見てくれる人、
カレンダーや手帳を手にしてくれる人に、
少しでも、よろこんでほしいからね。
──
はい。
笹尾
だから、これからも、職人さんみたいに、
身体が元気で描けるうちは、
毎日毎日、描き続けたいなと思ってます。
<おわります>
2017-09-23-SAT