数字は、自画像だった。笹尾光彦さんの「発見」 数字は、自画像だった。笹尾光彦さんの「発見」
第3回
数字は、自画像だった。
──
今回、2018年版の
ほぼ日ホワイトボードカレンダーの
「毎月の数字」を
描き下ろしていただいたわけですけど、
いかがでしたか、描いてみて。
笹尾
ヤバかったですね。おもしろすぎて。
──
笹尾さん、ぼくらのオファーにたいして、
ものすごく興奮してくださって。

もちろん、これまでの作家のみなさんも、
意欲的に取り組んでくださいましたが、
ここまでビビッドに
反応してくださった方は、はじめてです。
笹尾
だってね、あの日みなさんとお会いして
「数字を描く」というテーマを
いただいたときに、
これはものすごいことだと思ったんです。
──
ものすごい?
笹尾
あのね、数字を描く‥‥というテーマは、
みなさんが思っているよりも、
ずっとずっと根源的な課題だと思います。

少なくとも、ぼくにとってはそうだった。
──
それは、どういう意味で、ですか。
笹尾
何しろぼくね、からだが震えたんですよ。
冗談抜きで、あのとき。

カレンダーの毎月の数字を描いてくれと
お願いされたときにね、からだが。
──
ぼくたちとしては、当然、
「次は、この人にお願いしたい!」
と思って、
毎年オファーしてきたのですが、
「数字を描いていただく」
ということそのものに関しては、
正直、そこまで深く
考えたことはありませんでした。
笹尾
カレンダーそのものを頼まれたことは
何度だってあるし、
その都度、いろいろつくってきたけど、
数字だけを描けっていうのは、初めて。
──
数字は、テーマとして「難しい」とは、
何度か言われた記憶があります。
笹尾
ぼくは「難しい」とは、思わなかった。
──
あ、そうですか。
笹尾
難しいとはね、まったく思わなかった。
それよりも「嬉しい」って感じ。
──
それで「ふるえた」んですか?
笹尾
いや、うれしさでふるえたんじゃくて、
「怖かった」んです。

ようするにね、
空気みたいなもんでしょ、数字って。
誰にでも描けて、誰にでも読めるし。
──
ええ。
笹尾
それだけに「自分がバレる」と思った。

というのも、前の年が皆川明さんで、
ぼくは、彼のことを
さほど詳しくは知らなかったんだけど、
彼の描いた数字を見た瞬間、
「ああ、この人は、すごくできる人だ」
ということが、たちまちにわかった。
──
なるほど‥‥。
笹尾
決まりきったフォルムであるはずの数字に、
圧倒的にオリジナリティがあって、
でも、どこか、
ソール・スタインベルグの仕事を思わせる
知的なユーモアも、感じさせて。
──
スタインベルグさんというのは、
線画と言えばの、イラストレーターですね。
笹尾
あの日、この家に帰ってきてから、
もし、ジャコメッティが数字をつくったら、
どんなふうだろうとか、
もし、デイヴィッド・ホックニーだったら、
どう描いただろうとか、
頭の中が収集のつかない状態になりました。
──
すごくよろこんでくださってることは、
ひしひしと伝わってきたのですが、
そこまでの衝撃を、
ひそかに受けてらっしゃったとは‥‥。
笹尾
で、じゃあ俺はどうするんだって考えた。

で、いろいろ考えた結果、
自分のできることしかできないと思って、
こんなふうにしたんです。
──
額装されてきた笹尾さんの数字の原画は、
非常にオーソドックスというか、
奇をてらわず、かたちも王道ですけれど、
まさしく「笹尾さんの数字」でした。

笹尾さんが真っ正面から
「数字」に取り組んでくださったことが
すごく伝わってきて、
ああ、笹尾さんの数字だと思ったんです。
笹尾
うまくいったかどうかは
自分ではね、本当にはわからないけれど、
描いていて思ったのは、
「数字って、自画像だな」ということで。
──
数字が‥‥自画像。
笹尾
つまり、絵画表現における自画像ってね、
自分をすべて出さないと描けない‥‥
というか、
そこに自分がぜんぶ入っちゃうんですよ。
──
えっと、どういうことですか?
笹尾
つまり、それまで培ってきたものが、
あるとすればそのまま出るし、
何にもなかったら、
何にもないということが、出ちゃう。
──
自画像というのは、数字というのは、
そんなモチーフだったのか‥‥。
笹尾
その意味で、「怖い」と思ったの。

でも、良くも悪くも、
今の自分に描くことのできる「自画像」は
これしかないと開き直って、
楽しんで描いたのが、この数字なんですよ。
──
そう言われてみますと、
笹尾さんの数字が
笹尾さんそのものであるのと同様に、
過去のカレンダーの数字も、
その作家さんが、そのまま出てます。
笹尾
そうでしょう。自画像なんですよ。
──
毎年、作家さんから
12個の数字の作品が上がってくると
すごくワクワクして、
とってもうれしいんですが、
それは、その作家さんご自身が
作品に表れているから、なんですね。
笹尾
ぼくの描いたものが、
そうなっているかどうかはさておき、
「数字」だけで、
「よろこび」が伝えられるってのは、
ものすごいことですよ。
──
はい。
笹尾
何せね、ぼくの絵については
ほとんど褒めたことないかみさんが、
仕上がった絵を見て
「すごく美しい」と言ってくれたの。

「今までのあんたの人生が、
 ここに詰まっているんだね」って、
そう、言ってくれたんですよ。
<つづきます>
2017-09-22-FRI