第8回 テングザル理論。
糸井 最近、僕が発見した
ものすごい考え方があるんです。
テングザルのおもしろさのポイントは
 なんだかわかるか?」
という問いかけなんですけどね。
まぁ、「なんですか?」って
訊かれたいわけなんですけど。
三谷 え? それはなんですか?
糸井 ありがとうございます。
それはね、「目」なんです。
みんなは当然、鼻だと思ってるんです。
でもね、鼻は目につきやすいだけでね、
テングザルを何度見てもおもしろいのは、
あのでっかい鼻をしたテングザルが、
「オレの鼻、おもしろいだろ?」
っていう目をしてないからなんですよ。
三谷 ああ、なるほど(笑)。
たしかに「おもしろいだろ?」って顔をしてたら、
ぜんぜんおもしろくないです。
糸井 おもしろくないんです。
このテングザル理論は、もとを正せば、
吉本隆明さんのパクリなんです。
といっても吉本さんはテングザルのことを
言ったわけじゃなくて、
「表現のいちばんの基本形は沈黙だ」と。
ことばの枝葉を生み出す幹には
沈黙があるんだとおっしゃったんです。
僕はそれを聞いたときに息を飲んで、
いろんなことを整理し直さなくちゃいけないな
と思ったんですが、その帰り道で、
この「テングザル理論」を思いついたんです。
三谷 なるほど(笑)。
糸井 で、同じような話がもうひとつあって、
古今亭志ん朝さんのDVD全集のなかに、
柳家小三治さんが寄稿していてですね、
そこにこういうエピソードがあったんです。
ある日、志ん朝さんが、
お父さんであり大先輩でもある志ん生さんに、
「お父ちゃん、落語をおもしろくするには
 どうしたらいいんだい?」って、
ストレートに質問したらしいんです。
そしたら志ん生さんは
「そりゃおまえ、おもしろくしないことだ」って
こう言ったというんですね。
つまり、表現の幹は沈黙であり、
落語をおもしろくするには
おもしろくしないことであり、
テングザルのおもしろさは目にある、と。
三谷 すごい!
糸井 見事につながったわけです。
とくにこのテングザル理論をわかってからの僕は
いろいろと成長しまして、
三谷さんにおける「テングザルの目」なんかも
ずいぶん堪能しましたね。
三谷 それはよくわかるんですが、
僕はわかったうえで、正直にいうと、
「おもしろいだろ?」と言って、
本当におもしろいのが、
いちばんおもしろい気がするんです。
だから、今回の『ザ・マジックアワー』というのは
もちろんコメディなんですけども、
じつはあの映画の中に、
「これはコメディです」っていうことは
ひとつも出てこないんです。
というときに、いちばんすごいのはやっぱり、
『喜劇・駅前なんとか』みたいに
タイトルに「喜劇」ってついてるものですよ。
ものすごい勇気ですよね。
糸井 思えばね(笑)。
三谷 すごいことだと思うんです。
だから、僕の夢は
『喜劇ザ・マジックアワー』みたいな作品を作って
本当におもしろかったときですね。
なんか到達点はそこにあるような感じがするんです。
「喜劇」ってつけたら、
もう、笑わせようとしてるのが丸わかりですから、
ふつうはつまんなくなると思うんです。
でも、本当は笑ってほしいのに、
テングザルのふりをしてるのは、
なんかずるい気がするんですよね。
糸井 でも、テングザルは
鼻に気づかないふりをしてるんじゃなくて、
本当に鼻のことに気がついてないんです。
三谷 だから、それには憧れるんですけど、
僕はすでに笑わせようとしちゃってるから、
もうテングザルにはなれないんですよね。
糸井 だけど、三谷さんは、
「三谷幸喜っていう人の役」で
いろんなテレビとかさまざまな取材に出るとき、
テングザルの目を演じてますよね。
三谷 演じてはいます。
糸井 で、それは、けっこう本当じゃないですか。
三谷 うん、うん。
糸井 「あなたは、僕がなにかおもしろいことを
 言うのを期待してるかもしれない。
 そして結果的にあなたは
 おもしろく感じるかもしれないけど、
 僕はウソを言ってるわけではない」
っていうのは、テングザル演技ですよね。
三谷 そうですね(笑)。
糸井 で、そういうジャンルを探してくれた
三谷さんという人に、僕らはすごく憧れますね。
「あ、またやってくれてる」っていう(笑)。
三谷 そのときの僕にとっての鼻はなんなんでしょう?
一同 (爆笑)
糸井 結果的に、いまのセリフがそうです。
「僕にとっての鼻はなんなんでしょう?」
っていうセリフが、つまり‥‥。
三谷 うん、鼻なんですね。
糸井 つまらない人だったら、
違うセリフを返してきたと思うんです。
だから、それはやっぱり、
そういう鼻を持っちゃっているんでしょうね。
三谷 しょうがないですね(笑)。
糸井 だからね、『ザ・マジックアワー』もね、
おもしろいし、絶対当たると思いますけど、
あんまり「笑えますよ」とか
言わないほうがいいかもしれませんよ。
三谷 そのあたりは本当に難しいんですよね。
それこそ「笑えますよ」とか
「コメディですよ」ということが、
逆に引かせちゃうんじゃないかとも思いますし。
糸井 うん。鼻のことは、
あまり言わないほうがいいなって気がします。
三谷 「すごい鼻ですよ」っていうことですもんね。
糸井 僕は、もともと広告屋ですからね。
「この人は鼻です」っていう仕事をしてたんです。
その意味では自己否定なんです。
つまり、時代が変わったんですよ。
鼻はお客さんが気づいてくれたら
役に立てればいいんです。
最初は、やっぱりこの目の輝きです。
「お付き合いできるとは思いますけど、
 どうぞよろしく」という無言のほうに
やっぱりいまは行ってると思いますから。
そういう意味では、宣伝しすぎないほうが
いいような気がしますけどね。
三谷 いまは本当にもう、それこそ
テングザルがバッと出てきただけで
笑えるというか、それを求めてる。
糸井 うん、そうですね。
三谷 でも、本当におもしろいのは、
向こうを向いて座ってるテングザルでしょう。
糸井 ああ、いいですねえ!
一同 (爆笑)
三谷 そこで笑いたいですよね(笑)。
糸井 いいですねえ。
で、見る側が、向こうにある
テングザルの目を想像するわけですよね(笑)。
三谷 そうそう(笑)。
そうするともう、
いなくてもいいぐらいですよね。
糸井 いや、そうです、そうです。
さっきまでここにテングザルがいて、
向こうを向いてたんだよと(笑)。
うん、その構造はすごく、いい絵ですね。
三谷 でも、けっきょくは、
テングザルの中に、人を見るんですよね。
人を重ねるというか、人として見るというか。
それも、談志師匠と話したときに出たんですが、
すべての笑いは、けっきょく、
「人を見て笑う」ということになるのかと。
植物を見て笑うことってないわけですから。
逆に「爆笑できる花」とかあったら
すごいなと思うんですけど(笑)。
糸井 ああ、すごいですねぇ、あったら。
あの、植物っていうのは、
動いたりもするんですけど、
その‥‥時間がかかりますからね。
三谷 ずっと見てなきゃいけないから(笑)。
糸井 そうそうそう。だからね、
その時間に耐えられるという人にとってはね、
たとえば、ツタが、枝かなんかに絡まろうとして、
届かなくて「おっとぉ!」というのは‥‥。
三谷 大爆笑(笑)。
糸井 うん(笑)。
時間という概念さえ、どうにかすればね。
人間は永遠に時間という概念を
暫定的にしかとらえられないから。
だから、神のようになれば、
植物を見て笑えるようになると思いますよ。
つっこんだりして。植物に。
「それ、ハートのつもり?」みたいな(笑)。
三谷 ものすごい時間かかったツッコミですね(笑)。
糸井 うん。だから、もうそうなると岩で笑えます。
一同 (爆笑)
三谷 何千年もかけてツッコミを(笑)。
糸井 もう、弥勒菩薩とかが岩を見てね‥‥。
三谷 「‥‥今かよ!」みたいな(笑)。
糸井 そうそうそう(笑)。
三谷 ああ、おもしろいですねぇ。
糸井 というようなところは置いといて、
少なくともテングザル理論はね、
三谷さんにピッタリですから、
覚えて帰ってください。
三谷 うん。うかがって、
ちょっと成長した気がします(笑)。
糸井 ああ、それはよかった。
三谷 それだけでも糸井さんに
お会いできてよかったです。
どうもありがとうございました。
糸井 こちらこそ、ありがとうございます。
(これで三谷さんとの対談は終わり‥‥なんですが、
 ちょっと「オマケ」があるんですよ。
 というわけで、もう1回、続きます!)

2008-06-17-TUE



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