第2回 彼は屈折してたかもしれないけど 独創的なものを作り上げていました。

石井 子どもたちのための
「トポボ」というプロジェクトもあります。
レゴブロックスのようなパーツを組み合わせて、
いろんな形と動きをデザインできる
というものなんです。
糸井 動きを‥‥ということは、
パーツに情報が入ってる、
ということですか。
石井 そうです。
大部分はパッシブな
コンポーネントなんですが、
いくつかアクティブな
特別のコンポーネントがあります。
ごらんに入れましょう。

ここにあるブロックは、
動物の骨の構造を模した、
5つのプリミティブ(基本型)
からできています。



これをお互いにスナップさせることによって
飛行機、動物、虫、ビル、
いろんな形状ができます。
そこに、センサーやモーターを搭載した
アクティブなコンポーネントを入れることで
ブロックの動きを記憶し、キープします。

このコンポーネントが
レコード&プレイの機能を果たすため、
全体として複雑な動きを表現できます。
キャタピラーみたいな動きを覚えさせたり、
ぐにゃっと曲げたりすれば、
そのとおりのジェスチャーを覚えます。



自由にいろんな形を作って、
ボタンを押すことによって、記憶。
これをプレイ。実際に動く。


糸井 ああ、おもしろい。
石井 これのいいところは、
トップダウンで
ヒューマノイドを作るんじゃなくて、
ボトムアップで作るというところにあります。
トップダウンじゃなくても
複雑な動きをデザインできるんですね。
糸井 映画の「トイ・ストーリー」に出てくる
ライバルの男の子(シド)が
こういうのをいっぱいつくってましたね。
石井 そうですね、あのヘンなのくっつける、
あの子(笑)、
彼は屈折してたかもしれないけど
独創的なものを作り上げていました。
で、次。
糸井 次。
石井 我々のプロジェクトで
ポピュラーなものといえばこれですね、
あらゆるものから
自分の気に入ったものの色や形を取ってきて
それを使って絵を描くシステムです。
I/Oブラシといいます。
これは了戒公子博士の博論プロジェクトです。
彼女はいまバークレー大学の教授です。えへん。



ルネッサンスの時代、
画家というのは、
カラーメーカーでもありました。
つまり、絵の具を自分で作ったのです。
例えば、海岸に行って紫の貝殻を探して、
紫の顔料を作った。
糸井 うん、うん。
石井 アジアであれば、
食物(しょくもつ)とか
‥‥失礼、植物ですね、

草木から色を作ったりした。
そういったプラクティスを
デジタルの時代にもう一度
リヴァイブさせようということで興した
プロジェクトです。

ブラシのなかに
カメラとカラーセンサーがあって、
色や形、明るさをとらえることができます。

自分の身のまわりで
おもしろいな、と思うものがあったら
ブラシでキャプチャーする。
カラー、ピクチャー、モーションを
インプットして、絵を描く活動に使います。



くだもの、砂、ボタン、
子どもの目、犬の毛‥‥
インクのもとはなんでもいいんです。

例えば、自分の飼っている
犬の毛からとった色は、
センチメンタルバリューがありますね。
カラーピッカーで
ただRGBを拾ったのとは違って、
感情的なバリューがある。
そこには、物語があります。

子どもたちというのは、
ストーリーを語ることが大好きです。
彼らのあらゆるストローク、
あらゆるカラーに
実は物語が埋めこまれています。
ですから、これはその物語の
タペストリーのようなものになっていくんですよ。
糸井 あのぅ、先生、さっき、
「植物(しょくぶつ)」というときに
どうして「食物(しょくもつ)」って
おっしゃったんですか?


石井 あ、間違えてしまって。
糸井 日本語が、まず漢字で
出るんですか?
石井 ええ、日本語を忘れてはいるのですが、
漢字は浮かびます。
イデオグラフィックのイメージが浮かんで、
それを自分で
読んだら間違ってて(笑)、という
恥ずかしいことになってます。
糸井 おもしろい。
そういうの、はじめて聞きました。
石井 単純に日本語を忘れてるだけですよ。
糸井 そうなりますか。
石井 ええ。
でね?
糸井 はい、はい。
石井 このブラシは、
描いたものを指でクリックすると
どこからインクが来たのかがわかります。



ここにある色は
テディベアから取ったものです。

これはつまり、
3次元の方向にスパイクが
立っているということ。
3次元目の映像インフォメーションが
あらゆるストロークに入っているのです。
糸井 筆跡をクリックすると
インクの由来が出てくるんですね。
石井 そうです。
これを実際に
子どもたちに渡したときに、
どんなことが起きたかというと‥‥。

子どもがブラシをマイクのように持ち
歌を歌ってキャプチャーする。
その色で絵を書いて、
クリックすると、歌が流れだす。
糸井 おおお。
石井 これは従来の絵画とはちがって
あらゆるストロークに
テンポラルな情報を自由に入れられる
ということです。

現在、ミュージアムに行くと、
作品には寄るな触るな、
という感じになっていますけど、
将来はインタラクティブになって、
クリエイターが
あらゆるストロークに
いろんなメッセージを込められるようになり
それを触ってもらうように
なるかもしれません。

そういった新しい芸術表現を
作りたいな、というのが
ぼくらの希望のひとつです。
糸井 たとえば、いま
活躍してらっしゃるアーティストも
これを試したりなさいましたか?
石井 はい、
コラボレーションしてます。
あるコンテンポラリーアーティストは
この筆を持ってキッチンに行って、
マーケットで買ってきたものを
いっぱいキャプチャーして、
コラージュを作りました。
コーンフレークとか、缶詰とか、
いわゆる資本主義的な食文化から
インクを取ったんです。
現代のアメリカの消費文化が
インクをズームすると出てきます。
そうやっていくと、なかなかにおもしろい
重層な意味をもつ絵ができあがります。
糸井 アーティストさんたちは
これに対して
どういった感想をお持ちでしょうか。
石井 超好評です。
いまの絵画の材料に、ある意味で
飽きてきている、という
現状もあるのかもしれません。
このシステムですと、
プロセスも自分の体験も
新しくデザインができますし、
三次元の絵に
どんな意味を与えるかというところも
まったくアーティストの自由なわけです。
糸井 うん、うん。
石井 家族のアルバムに
亡くなったおばあさんの写真があって、
その写真をキャプチャーして、
コラージュを作ったアーティストがいました。
インクをキャプチャーするときに、
「このおばあさんは、
 わたしのために毎日クッキーを焼いてくれた、
 とてもすてきなおばあさんでした」
としゃべりながら、コラージュする。
そうすると、その絵には、
画家の語るおばあさんの
エピソードが入ってくるのです。
ぼくらはそのストーリーを味わいながら、
アルバムの写真を鑑賞できる。
これも新しい表現の発明だと思います。
その解釈は、強制されるものではありません。
それぞれのユーザが、自由に
オリジナルな解釈をしたものがここにあって‥‥
糸井 埋め込んだ状態になってる。
石井 そうです。
白い空間があれば、
埋めたくなりますよね。
行間があれば、読みたくなります。
五七五の俳句の言葉のあいだに
にじませるように‥‥。
糸井 だけど、そこには
もっとも古くさい、
粘土だったり顔料ひとつを
手に入れた奴が持っていた
いちばんプリミティブなよろこびというものが
なんであるかを
徹底的に考えることも
並行して行われる必要がありますね。
石井 ええ、おっしゃるとおり
もちろんそうですね。
いま、粘土の話が出てきましたけれども
そういったことも考えています。
糸井 はい。
石井 次、行っていいですか?
糸井 はい、お願いします。

(つづきます。それぞれのプロダクトが
 どんなものか、下の動画でどうぞ。
 I/O ブラシについてもっと知りたい方は
 ぜひこちらをごらんください)


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2011-05-12-THU

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN