三重県の県立美術館で、 大橋歩さんの展覧会が開催されています。  この展覧会を準備中の、10月のある日、 大橋さんが「ほぼ日」にいらっしゃいました。 12月で終了する雑誌『アルネ』の取材で、 糸井重里にインタビューをするために。  インタビュー終了後は、穏やかな雰囲気はそのままに、 糸井とのおしゃべりの時間になりました。 おしゃべりのなかに展覧会の話題が混ざっていたので、 それをそのまま、ここに掲載いたします。 「大橋歩展」、どうやら必見のようです。
  • 大橋歩さんのプロフィール。
  • 「大橋歩展」はこんな展覧会です。
  • ちょっとくわしい美術館へのアクセス。
  • 別冊アルネ『三重県へ』も一緒に!
  • 展覧会のカタログ、おすすめです。
その1 「戻る」季節なのかもしれない。
糸井
この展覧会のために、
けっこう長く三重に行かれてますよね。
大橋
制作しなくちゃいけなかったりするので、
今、アパートを借りてるんです。


糸井
そうそう、アパートを。
大橋
そのアパートが海のそばなんですね。
すぐ近くがそのまま海なんです。
すごくいいな、
与論島よりここのほうが
いいんじゃないかなって
ちょっと思うんですけど。
糸井
山あり海ありみたいな、
食べ物のおいしい場所でしょう?
大橋
そうですね。
糸井
慣れてる土地ですし、
大橋さんはいずれ三重に住むんじゃないかって
ぼくは勝手に想像したんですよ。
大橋
一瞬、私も三重でもいいかと思ったんですね。
でも、なんか‥‥
糸井
夫が何と言うか(笑)。
大橋
ええ(笑)。
糸井
優しくされますよ、地元だからきっと。
大橋
そうかもしれないですね。
糸井
三重県が嫌になって
喧嘩して別れたわけじゃないでしょう?


大橋
え? はい、もちろん。
糸井
ぼくは地元で何かをやるって
なかなか考えられないから、
大橋さんの三重のそれは
いいなあと思って。
大橋
でも私も今まで、
三重県で何かやるとは思ってなかったんです。
糸井
あ、そうですか。
大橋
三重県からのお仕事は、
何となくお受けできなかったんです。
糸井
それはぼくもそうですね。
でも今回の、この展覧会の話は、
なんか静かにおさまった感じがして、
すごくうらやましいんです。
大橋
それは多分、年が来て‥‥。
糸井
鮭が川を戻るじゃないですか。
大橋
はい(笑)、そういうことですかね。
糸井
鮭、ボロボロになってでも戻りますからね。
大橋
そうですねえ。
糸井
自分にもそういう時期が
来るのかなあとかってね。
大橋
すごいことです、今回のことは。
糸井
すごいことですね。
大橋
私はイラストレーターですから、
まさか美術館がやってくださるとは
思ってもいなかったし。
だから、最初お話をいただいたときに、
「え?」って思ったんです。
「私じゃないでしょう」って。
でも、学芸員の方が銀座の展示を見てくださって、
三重県でこういう形もいいと
思ってくださったらしくて。
今の学芸員の方たちは若いから、
大丈夫だと思われたんでしょうね。
私としては、
「えー、これはちょっと箱が大きすぎるかな」
って気はあったんです。
でも、
「いや、させてもらえるってことはこれ、
 やっぱり三重県だからだわと」思って。
出身地だからお声がかかったんだなと思うと、
ありがたくなって。
それって年齢ですよね。


糸井
年齢と、それから、
何ていうか‥‥。
素直な気持ちで
頼まれている感じがしますよね。
大橋
ああ、はい、そうです。
糸井
たとえばの話、
政治家だったり市役所だったりする人が、
「大橋歩っていうのが
 三重県出身の有名人だから頼みにいこう」
というケースもありますよね。
でも、今回のこれはそうじゃない。
三重県の美術館があって、
そこから大橋さんに
いまのタイミングでかかる声には、
「うちでやってくれないかなあ」
という素直な気持ちが見えるんですよ。
それがすごくきれいにおさまってる気がして、
ああ、いいなあ、と。
大橋
そうやって言ってくださるとうれしいです。
糸井
ぼくもだから、
それに便乗して行こうと思って、
声をかけてもらったときに
「おれもうらやましいから行こう」と。
(※11月28日に三重県立美術館で、
 大橋さんと糸井のトークイベントがあります。
 現在、事前のお申し込みは締め切りました)
大橋
ありがとうございます(笑)。
糸井
大橋さんのホームページとかを見てると、
三重県の電車の風景があったりして、
なんかこう、少女の日記みたいです。
大橋
わあ(笑)。
糸井
制作に通っているって話が
書いてあるんですけど、
なんか女子学生みたいですよ、大橋さん。
大橋
そうですか?(笑)
糸井
大橋さんがふるさとに戻ってくる
という流れを感じたのは、
それを見たからかもしれないですね。
大橋
制作に通いながら、
すごい不思議というか、ありがたいというか。
そういう気持ちはあるんですけど、
まだなんとなく実感がもててないんです。
糸井
うん、実際にものが並ぶまでは、
実感はもちにくいでしょうね。
大橋
そう。
ですからそれに向かって必死で今、
間に合うように頑張っています。
糸井
いやあ、いいですよねえ。
なんだろう‥‥
根本的に天涯孤独だと思うんですよ、人って。
セットのご夫婦ってこともあるんだけど、
でもセットで天涯孤独かもしれないし。
広ーいところにポツンといる感じっていうか、
落ち着く場所っていうのを
年を重ねるとやっぱり考えますよね。
「根はどこに生えてるんだっけ?」みたいな。
今のぼくには添え木がいっぱいあって、
一緒にはたらいてる添え木が若木だから、
「一緒に生えようじゃないか!」
ってことでごまかしてるけど、
でも、しょせんはやっぱり天涯孤独ですから。
その時になって自分はどこにいるんだろう
って考えると、
今までの詩人やら小説家やら
歴史の人物がみんな、
ふらふらと故郷に戻っていくのを思い出すんです。


大橋
なるほど。
糸井
それは人との関係じゃなくて、
場所じゃないかと思うんですよ。
ぼくもひょっとしたら、
さっきの鮭の話みたいなね、
そんな気分になるかもしれないですねえ。
でも‥‥もしかしたら、
故郷じゃなくてもいいのかもしれない。
とにかく、もう動きたくないっていう場所に
風に吹かれてポンとおさまるんじゃないかな?
っていうのはありますねえ。
大橋
そうですか。
糸井
その時に、
「海が見えるんだよね」
というようなことを言うんでしょうね。
なんでそんなに海が見たいんですかって
他人には聞こえるかもしれない。
でも「海が見えるんだよね」って言葉は
すぐ出てきちゃうじゃないですか。
大橋
そうなの。
どうしたんでしょう、本当に(笑)。
糸井
鮭現象なんでしょうね(笑)。
とにかくそこに行ってみれば、
見えてくるものがまたあるかもしれないとか。
そういう気持ちがあるんですよ。
大橋
そうですね、それはわかんないですから。
糸井
うん。
で、「またアルネを出すことになったの」
とかね(笑)。
大橋
(笑)
糸井
いやあ、何に目覚めるかわかんないですよ。
大橋
わかんないですね。
(つづきます)
2009-11-15-SUN