「八ヶ岳倶楽部」編 今回の先生/柳生真吾さん
名前その53 ミツバ
「9階建てだからクガイソウ」を見つけたあたりには、
ほかにもいくつかの植物がありました。
雑木林のみちくさたちは、
ふたりを歓迎しているかのように
緑をたたえてそこに生い茂っています。
柳生さんは次々と、それらの名前を教えてくださいました。
柳生 このあたりは、みちくさがたくさんあるなぁ。
吉本さん、きょうはここだけで
終わっちゃうかもしれませんよ(笑)。
吉本 ねえ(笑)、なんだかたくさん。
柳生 この花、知ってますか?
吉本 花? この子ですか。
‥‥なんだろう。
柳生 じゃあヒント。
葉っぱを見てください。
花より葉っぱのほうがみんなよく知ってるはず。
吉本 葉っぱ‥‥。
3枚あります。
柳生 ああ、かなりいい線いってますねぇ。
吉本 葉っぱが3枚‥‥。
だから‥‥ミツバ?
柳生 正解。
吉本 ええーーー?
柳生 これが野生のミツバです。
吉本 ミツバ‥‥ミツバですか。
じゃあ、これがミツバの花。
柳生 まだつぼみですけどね。
吉本 へえええーーー。
柳生 というわけで、野生のミツバ発見。
吉本 初めて見ました。
やっぱり力強いですね。
柳生 そうですね、硬いです。
でも、香りはすごい。
吉本 うーん。
柳生 これにダンボールとかをかぶせて、
もやしのように育てれば、
売っているミツバになるんですよ。
吉本 売ってるのは色白ですよね。
柳生 白くて柔らかい。
これはかなり硬い(食べる)。
吉本 あら(笑)。
柳生 うん、やっぱり香りがいい。
吉本さんも、どうぞ。
吉本 わー、ありがとうございます(食べる)。
‥‥うん、おいしい!
苦味がすごく勝ってるけど。
柳生 しっかり火を通して、
チャーハンなんかに入れたら、
おいしいですよぉ。
吉本 チャーハン!
柳生 ミツバのチャーハン、
これはもう、うまいです。
吉本 このミツバは、
ここに勝手に生えてるんですか?
植えたわけじゃなくて?
柳生 はい、勝手に。
育てようと思ったわけじゃないです。
吉本 すごいなぁ。
柳生 あ、これもおもしろいでしょう?
吉本 これは? V字型ですね。
柳生 ぼくはよく「これ何に見える?」って
子どもたちにきくんですけど、
吉本さんは、何に見えます?
吉本 なんだか‥‥
怒ってる人の顔に見えるんですけど。
柳生 ほんとですね(笑)。
「宇宙人」っていう子もいました。
吉本 そうね、宇宙人(笑)。
柳生 あと、けっこう好きなのは、
「ぞうり」です。
吉本 あぁー、ぞうり! こういう鼻緒の。
柳生 これね、ミズヒキの葉っぱなんです。
吉本 ‥‥えぇ〜?! だって、ミズヒキ?
あのミズヒキですか?
柳生 そう、あのミズヒキの葉っぱです。
吉本 柳生さんにはじめてお会いしたとき、
最初に出会ったみちくさですよね?
吉本 そうそう。
柳生 おもしろいですねぇ。
ここでまた会えるなんて。
吉本 ほんとに‥‥。
柳生 しかし、このあたりはもう、
一歩進むごとに、みちくさが(笑)。
吉本 あのぉ、これは?
柳生 これはギボウシ。
ギボウシのつぼみです。
吉本 そうか、ギボウシだ。
柳生 橋の欄干に飾られている
擬宝珠(ギボウシ)と、
このつぼみの形が似ているから。
吉本 あ、それで?
柳生 ギボウシ。
新芽はめちゃめちゃおいしいんです。
吉本 新芽。
柳生 「ウルイ」という山菜、ご存じですか?
吉本 はい、ウルイ。
柳生 ウルイはギボウシの新芽や若葉のことなんです。
吉本 そうなんだー。
柳生 これもね、おがくずをかけて、
光を遮断すると、ひょろひょろっと、
真っ白なやつが育つんですよ。
それがおいしい。
吉本 ミツバと同じ。
柳生 そう、もやしっ子にすると、
柔らかくてすっごい元気になるんです。
吉本 元気になる。
柳生 だからぼくは「もやしっ子」っていう
ことばの使い方が間違えてると思うんです。
吉本 弱い子じゃないのね。
柳生 もやしっ子って、
すごく健全で、いいものを持ってるんですよ。
光がなくてもあんなに育っているわけですからね。
‥‥ああ、ごめんなさい、
ぜんぜん進みませんね(笑)。
吉本 (笑)
柳生 ギボウシは、たしか花が咲いてるのがあったので、
あとでまたお話ししますね。
ここでは野生のミツバのことを覚えてください。
吉本 はい。
今回は3つの植物が出てきました。
ミツバ、ミズヒキ、ギボウシ。
でも柳生さんのおっしゃるように、
ここでは「ミツバ」だけを覚えておきましょう。
野生のミツバを見たときに、
「あ、ミツバ」と気づけるよう、
写真をよく見て覚えてくださいね。

今回、吉本由美さんのエッセイはお休みです。
次の「みちくさ」は、火曜日に。
「八ヶ岳倶楽部でみちくさ」編は、
火・木・土の更新でお届けいたします。
2010-09-04-SAT
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