「のがわでみちくさ」編 今回の先生/梅田彰さん
名前その32 ホタルブクロ
ワルナスビのお話をしたすぐあとに、
おふたりはまた柵のところで
別のみちくさを見つけました。
それは、風情あるたたずまいで、ひっそりと、
雨粒をたたえた釣り鐘状の花を咲かせています。

梅田 ああ、ありました。
今日はこの花をお見せできたら
いいなあと思ってたんですよ。
吉本 みごとに咲いてますね。
何ていう名前なんですか?
梅田 これは、ホタルブクロといいます。
吉本 ホタルブクロ。
梅田 よかったです、咲いててくれて。
吉本 ほんとにホタルが入るから
ホタルブクロっていうんですか?
梅田 うーん‥‥名前の由来については、
「子ども達がつかまえたホタルを
 この花の中に入れて持ち帰ったから」
という説もあるのですが、
現実的にはむずかしいんじゃないかと、
私は思っています。
吉本 ホタルを入れるのはむずかしい。
梅田 中に入れても、口を閉じられないんですよ。
よじって閉じようとすると花が破けるんです。
吉本 破けちゃう‥‥。
でもやっぱり、いい名前ですよね。
梅田 そうですね。
花が咲くのはホタルが飛ぶ時期ですし。
季節感があって、とても粋な名前だと思います。
吉本 よかった、きれいな名前が出てきて(笑)。
梅田 さっきはワルナスビでしたからね(笑)。
吉本 この花は、どうしてこんなに
下向きに咲かなくちゃいけないんでしょう。
梅田 これはですね、マルハナバチのためなんです。
吉本 マルハナバチ?
梅田 マルハナバチという、
昔から日本にいるハチがいまして、
このハチは同じ種類の花から
花粉や蜜を集める癖があるんです。
吉本 同じ花から。
梅田 植物にとっては
他の花の花粉を持って来るよりも、
同じ種類の花から持って来てくれるほうが
ありがたいわけです。
吉本 はい、それはそうでしょうね。
梅田 ホタルブクロの花は中に毛があって、
マルハナバチが強い脚で
下に落ちないようしっかり掴まり、
花の奥にある蜜を
長い舌で嘗めとれる形になってるんですよ。
吉本 その子しか蜜を吸えないような形なんですね。
梅田 「マルハナバチさんよ、いらっしゃい」と。
「あとは要らないよ」という形が、
こういう下向きの長い花なんです。
吉本 下向きの花。
梅田 ホタルブクロは口が広いのでもぐりこめますが、
もっと細い花の場合は、
マルハナバチは花にぶら下がって
長い舌で奥にある蜜を嘗めます。
舌が長いマルハナバチじゃないと、
下向きの細長い花の蜜を
嘗めることはできません。
吉本 これは拒絶の形なんだ。
うまくできてますねー。
梅田 ところがですね、問題がありまして。
セイヨウオオマルハナバチという、
外国から輸入したハチがいるんです。
吉本 西洋から、そんな子が。
梅田 温室トマトや温室ナスを
ハウスの中で受粉させるために、
輸入されたハチです。
人の手で受粉させるのはたいへんなので。
吉本 はい。
梅田 それがハウスから逃げ出したんですよ。
吉本 ああ‥‥。
梅田 そうなると、問題なのはですね、
日本のマルハナバチ歓迎型の下向きの細い花だと、
西洋からきたやつは蜜のある場所に横から穴をあけて
蜜をなめとってしまうんです。
吉本 穴をあけちゃう。
梅田 日本のマルハナバチに比べて
アゴは強いけど舌が短いもんですから。
吉本 穴をあけて蜜だけを。
梅田 蜜だけをとって、花粉を運ばない。
つまり、「蜜盗み」をするんです。
吉本 蜜盗み(笑)。
蜜盗みがいたんだ。
梅田 「マルハナバチよ、来てちょうだい」
と進化した下向きの細い筒型の花は、
ほかにもいろいろあるんですが、
そういう植物が蜜盗みをされて、
増えにくくなってきてるんですよ。
また、日本のマルハナバチの巣を攻撃したり
乗っ取ったりするんです。
それが今、ひじょうに問題になっています。
吉本 そうなんだぁ‥‥。
「蜜盗み」っていうことばはかわいいけど、
それは困っちゃいますねえ。

今回は、日本の風情あるみちくさでした。
ホタルブクロ。
この形で、この名前、
もう、覚えましたよね?

マルハナバチのことも、興味深いお話でした。
「マルハナバチ」で画像検索してみてください。
かわいいですよー。

次の「みちくさ」は、金曜日に。
「のがわでみちくさ」編は、
火曜日と金曜日の更新でお届けしています。


ご紹介したみちくさについての 感想やご指摘など、お待ちしています!

 

吉本由美さんの「ホタルブクロ」
 
花の口を捩って中に閉じこめた蛍の放つ柔らかな光で
つり鐘状のシルエットが闇夜に薄ぼんやり浮かび上がる。
“蛍袋”という和名を見れば、
誰もがそういう幻想的な光景を思い起こすだろう。
だから当然名前の由来は、 
子供たちがホタルを花の中に閉じこめて、光らせて遊んだ、
という説にあると思いたいのだが、
梅田さんは、
そんなことしたら花はすぐに破けます、と、バッサリ言う。
ホタルブクロの花弁は
ことのほか薄くて柔らかいらしいのだ。
じゃあ口を捩らなければいいのでは、と、問うても、
薄く笑って、
梅田さん、
花は下向きに付いていますから、
開いたままではホタル落ちてしまいます、と断言。

梅田さんの思うところの名前の由来はこうらしい。
古語で提燈(ちょうちん)のことを
「火垂(ほたる)」と言う→
→なのでお尻に提燈を
ぶら下げているように見える昆虫を「螢」と呼んだ→
→ゆえに提燈の形をした花を「螢袋」と言うようになった。

別名にツリガネソウの他、
チョウチンバナ、トウロウバナ、があるくらいだから、
なるほど、そのような気がしてきた。

ホタルブクロはキキョウ科に属し、
日本、朝鮮、中国、ロシア極東部に分布している。
今回現物(!)を教わって、ハタと気付いたのだけれど、
私はホタルブクロをその昔見ているのだった。
ある年の夏休み、阿蘇高原を父と散歩していて、
突然白い花の群生に出くわしたことがあった。
“鈴なり”とはこういうことかと膝を打つほどに、
白い小さな鐘(=鈴)のような花が、
びっしりと、延々と、咲きつらなっていた。
80歳あたりまで植物マニアだった父が、
腰に手を当て
「ツリガネソウがよう咲いとるねえ」と
目を細めて言ったのを覚えている。
野川の川べりで見た花の色は薄赤紫で、
阿蘇の白いのとすぐには結びつかなかったが、
そうか、あのツリガネソウが
実はホタルブクロだったのだ。
2009-09-01-TUE
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