「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
名前その5 オキザリス
「雨に洗われて、草たちがお風呂に入ったみたいですね」
そんな会話をはずませながら、
吉本さんと柳生さんはゆっくり進みます。
代々木公園の小径を、ぴちぴちちゃぷちゃぷ。

吉本さんが「あら?」と、立ち止まりました。。
 
吉本 これは? これはもしかすると‥‥
柳生 そう、それ、カタバミなんですよ。
吉本 形がそうだからもしかしてと思ったんですが、
カタバミって、こんなに大きくなるんですか?
柳生 ええ、なりますね。
吉本 長く生きているとこうなる。
柳生 あ、いやいや、ちがうんです、
これはね、種類がちがうんです。
この子は大きくなる種類。
で、多分これは、園芸で育てられていたのが
逃げ出してきたんじゃないかと。
吉本 そんなこともあるんですね。
柳生 この子はちょっと、
おぼえにくい名前がついてます。
オキザリスっていう。
 
オキザリス
分類/カタバミ科 カタバミ属
学名/Oxalis
  開花期/春咲き、秋咲き、
    多種多様
草丈/5〜30センチ
吉本 オキザリス。
柳生 そう。おぼえました?
このみちくさは‥‥
ふたり オキザリス。
柳生 この子、大きな花が咲くんですよ。
吉本 あ、花が咲くんですか?
柳生 大きな花が咲いて。
吉本 何色ですか、紫?
柳生 紫もピンクも白もあります。
種類がほんとに多いんですよ。
吉本 へえー。
 
柳生 うん。
これはだから逃げ出したんですね、どこかから。
まわりにふつうのカタバミがあるでしょ?
吉本 ええ、よく見かけるちっちゃいのが。
この子たちも繁殖力がすごくて。
柳生 すごいですよねえ。
吉本 ちょっと油断してるとうちの庭の苔の中で
いっぱいに増えるんです。
柳生 そうそう、ほんと増える。
吉本 でも、へえ〜、そうですか、
こんなおっきいカタバミもいるんだ。
柳生 きっとどこかから逃げ出したんですね。
そういうの、わりと多いんですよ。
庭から逃げ出してこういう場所にくるんですね。
逃げ出すというか、
風とかに連れてこられるというか。
吉本 連れてこられて‥‥
なんだか「置き去り」にされたみたい。
柳生 ほんとですね(笑)。
どこかの庭から連れてこられて、
そのまま、置き去りす。
吉本 ねえ(笑)。
この名前は、もう忘れないかも。
 
連れてこられて置き去りにされたから、オキザリス。
ちょっとシャレみたいですけど、印象にのこりますね。
この子もやっぱり、花を見るのがたのしみです。

次の「みちくさ」は、来週の月曜日に。
月・水・金の更新でお届けいたします。

 
吉本由美さんの「オキザリス」
 

うわ、でかいカタバミがいるぞ、と思ったら、
柳生さんが「これはオキザリスです」と言う。
カタバミの園芸種がどこかの庭から逃げてきたらしい。
置き去り‥‥
逃げてきた‥‥。
ふたつの言葉に魅了され、そのでかいのをじっくり見た。
すぐそばに、問題物の大きさを現すときに登場する
ショートホープみたいにして、
普通のカタバミが生えている。
差は7、8倍あるだろうか。
紫、ピンク、白などの大きな花をつける
観賞用というお嬢さん育ちのこの植物が、
都会のど真ん中の公園まで、
いったいどこら辺りの庭から逃げてきたというのだろう。

家に帰っていつものように『牧野植物大図鑑』を繙くと、
オキザリスはハナカタバミという名前で載っていた。
カタバミ属は7種あり、
すべての種類の頭にOxalis(酸味の意)と
学名が付いていたが、
オキザリスと学名呼びされているのはこれだけだ。
解説に、アフリカ喜望峰原産、
日本には江戸時代末期渡来して九州に帰化した、
というようなことが書かれていたから、
目の前に、丸みを帯びてひろびろと、
あおあおと、きらきらとした大海原が浮かんできた。
旅人なんだなあ、この大っきいのは。
だから温室から逃げ出したくなるのだろうか。

先日伊豆の下田の町を歩いていたら、
花屋の店先に「オキザリス 200円」と書かれた
小さな鉢がびっしり並んでいるのを発見。
細っこい開花寸前のピンク色の花が付いているが、
その葉はどう見ても
オキザリスおよびカタバミ属特有のハート形ではない。
しかし店の人の笑顔を見たら問い質せない。
店先で疑心暗鬼にもだえた。
で、証拠写真を撮って柳生さんに送って鑑定してもらった。
回答は、
「これは『オキザリス 桃の輝き』です。
 きっと日本で生まれた品種でしょう。
 すごく寒さに強く丈夫。
 庭に植えるとかってに増えて困るほどかも!」
へえぇ。

2008-12-12-FRI
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