「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
名前その2 チヂミザサ
ミズヒキを見つけたすぐあとに、
葉っぱのちぢれたごくごく普通の草が目にとまりました。
普段ならスッと見過ごしてしまうような草ですけれど、
こうして見つけると、やっぱり名前が気になりますねえ。
傘を持ったおふたりがスッとしゃがみこみます。

 
柳生 これも面白いでしょ、こう、ちぢれてるでしょ。
葉っぱがちぢれてるんです。
吉本 はい。
柳生 で、笹みたいな葉っぱじゃないですか。
だからチヂミザサっていうんです。
吉本 チヂミザサ。


チヂミザサ
分類/イネ科 チヂミザサ属
学名/Oplismenus undulatifolius
原産国/日本
  開花期/秋
分布/日本全国
草丈/10〜30センチ
柳生 ぜんぜん笹の仲間じゃないんですけど、
葉っぱのかたちが笹に似ているから
そういう名前なんです。
吉本 あ、笹の仲間じゃないんですね。

柳生 そう。で、これがよく増えて、
しかもズボンにくっつんです、タネが。
いまこれにタネはついてないんですけどね、
タネがあるときにはすごいんですよー。
うちの子どもたちがこれをつけて帰ってくると
玄関で「取りなさーい」なんて
言われるじゃないですか。
そうやって、玄関で取るもんだから、
玄関でチヂミザサが増えちゃう。
吉本 あー、すごいなあ。
柳生 チヂミザサの戦略に
まんまとはまってるんですよ、
うちの家族は(笑)。

雨はまだまだ降りやみませんが、
おふたりの会話は静かにすこしずつ熱をおびてゆきます。
チヂミザサ、チヂミザサ、チヂミザサ‥‥おぼえました?

次のみちくさは、12月8日に。
しばらくは、月・水・金の更新でまいります。

 
吉本由美さんの「チヂミザサ」
 
笹にはほとほと困っている。
ここ十数年住み着いている共同住宅1階の部屋には、
それぞれに猫の額ほどの小さな庭があって
みなさん手入れに余念がないのだが、
困ったことに私の左隣の部屋の
荒れほうだいの庭から笹が押し込み強盗的にやって来て、
ウチの苔をいじめるのだ。

初めの頃は品のいい老夫婦がお住まいで、
水仙やぼたんや小菊など折々の花の咲く小綺麗な庭だった。
その後住まい手が3代変わった。
彼ら都会の働き盛りはヒマなしらしく、
庭はみるみる荒んで笹に覆われてしまった。

笹庭、と思えば、それはそれで野趣たっぷりの
風情ある庭と見えなくもない。
蛇はさぞ嬉しかろう(外庭も込めた敷地ぜんたいに
2匹のシマヘビが棲んでいる)。
問題はその笹の侵略地図に
ウチの庭が含まれているってことだ。
10年もかけて育てた苔庭のあちらこちらに
ひょこひょこと顔を出して苔を弱らす笹連である。
むろん私も鬼と化し、
見るもの触るもの残らず引きちぎり引っこ抜く。
しかしその地下茎は地中深く蔓延って、
ずるずるわしわしと分布拡張し続けるんだから
悔しいかぎりだ。

というわけでチヂミザサという名前を聞いたとき
嫌な気がした。
柳生さんは「葉が縮んでるからチヂミザサ。
でも笹じゃないんですよ。似てるってだけで
ササって付けちゃった。植物の名前って
かなりいい加減に付けられてるんですよね」と笑うが、
笹ほどではないにしても
これだって地面横ばいでどんどん増えていく、
地味ながらやっかいなやつなのだ。
節から根を出し、冬も枯れない。つ、つ、強い。
そう思って、はたと気付いた。
白金台自然教育園前の歩道の植え込みの下一面を、
鬱陶しくもびっしりと覆い尽くしているのは
これではないかと。

2008-12-05-FRI
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