雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

2.田坂広志さん篇。

第8回 リスクを取るということ


糸井 すごく雑なことなんだけど、ぼくは最近、
「サラリーマンって会いたくない」
と言うんです。
リーダーシップを持っていないひとの話って、
きいてもおもしろくも何ともないんですよ。
ところが、どんな小さい商店の親父でも、
社長はぜんぶおもしろい。
それは、最終的に俺が決める、
というところが、勝負なんですよね。
田坂 おっしゃる通りです。
リスクを取らない人間とか
退路を断たない人間の話って、
おもしろくないんですよ。
一億総評論家の時代で、
リスクを取らずにええかっこしたい人というのが
テレビにあふれていますから、
みんながそれを無意識にやってしまうんです。

総理大臣に対してもみんないろいろ言いますが、
「じゃああなたが総理大臣をやったら?」
と聞きたい。でも、そう聞いたら
「なってみなきゃわからないな」と。
糸井 スポーツ選手を尊敬する理由はそこなんです。
絶対的なもので、代わりがないから。
スポーツ選手に会うときだけは緊張する。
田坂 マイケル・ジョーダンって
歳の割に見た目がものすごく
成熟した感じがあるじゃないですか。
プロ野球選手でも、スポーツ選手って、
けっこうみなさん修行僧のような
表情をしているときがある。

彼らは退路を断っていますよね。
この試合で結果を出さない限り、
来年はクビだというところでやっている。
人間の精神は、ああいうところに置かれ続けると、
かなりのレベルまで行くんですよ。
自己責任を持ってリスクを取って、
退路を断ってやっている人は、言葉が生きている。
暗黙知とか潜在意識が活性化しているんですよ。
糸井 インターネットを持つことで
メディアを全員が持てるようになった、
つまりそこではリーダーシップを取っている。

例えば、ぼくは掲示板をつくらないんです。
責任をもてないということと、
掲示板のレベルに思われるのが嫌だと。
つまらない意見が2日も続くと、管理人は苛立つ。
だから、実際にページをつくっている人は、
ぼくが掲示板をつくらない理由をわかると思う。

会社ではサラリーマンかもしれないけど、
自分のページでは責任者、みたいな、
そういう人が増えるのがいいなあ。
田坂 そのあたりはすごくおもしろいテーマで、
教育の根本を変えてしまえばいいと思うんです。
知識詰め込み教育だったらCD-ROMに絶対負ける。
責任を持って何かを決めるとか、
自分がいない限り何も進まない状況に立つ、
そういったことが最高の教育だと思います。

人間の知識の量と智恵とはあまり関係ない、
それが最近よくわかってきて、
知識を10倍詰めこむと智恵も10倍かというと、
全然そうではなくて。

智恵はむしろ、自分を追いつめて、
責任や情熱や志を持って
何とかしようとするときに、わきあがってくる。
潜在意識の活性化から起きるものなんです。

潜在意識から湧きあがるものを仕掛けるような
スキルって、あるんですよ。
さきほどの司会の30秒前というのはそれで、
もう自分の番だ、何も思いつかなくても、
30秒前になれば来るというのがわかるから、
何となく待っているというか。
プレッシャーはあるけど、
やはりいい感じで浮かんでくる。

本屋で友人が来るのを20分も30分も待ってて
「あいつ遅いなあ」と本屋を一周すると、
本が一冊書けるくらいの物語が
頭のなかに生まれてきますよね。
糸井 本屋に行ったら、
タイトルがいくつも浮かびますよね。
あれは、ありがたい。
田坂 本屋で見ていて、
何でこの言葉とこの言葉が
ひっかかるんだろう?と帰りの道で考えると、
そこに物語が浮かんでくる。
糸井 買うのを我慢したほうがいいかな、
というのも課題ですね。
気になるものをどんどん買うと、
いっぱいになって、読みっこない。

ぼくは今まで、
買うことにも意味があると思ってた。
目次を見るだけでも、もっと言えば
買っておしまいになっても意味がある。
もしかしたら、もっと飢えたほうがいいのかな、
買えないと思いながら本屋を歩いたほうが
もっとぴかぴかするかなあ、というのが
気になりはじめています。
田坂 それは悩ましいところですね。
さっきの話ですが、
速読法の秘訣がもしひとつあるとしたら、
著者が何を言おうとしているかを
読んではだめですよね。
糸井 そうです。
田坂 俺が何でこの人の本を読みたくなったのかを
考えるという、傲慢だけどそんな感じですよね?
糸井 本を、景色として見ないとだめです。
時々は、彼の言う通りに歩いてみようというのも
おもしろいですけどね。
「もう、何でも言うことききます」
と目をつぶって著者のうしろについていくと、
「ほら、落ちた」という瞬間がある。
ぼくは最近のビジネス書を読むときに
ほとんどその読みかたをわざとするんです。

すると、問題意識のかたまりがあるから、
前半が絶対におもしろい。
で、その先、お前どうするんだ?
と読んでいったら、何にも書いていなかったり。
本を半分に切るとおもしろいかもしれない。
田坂 この著者は認めちゃう、という場合は、
自分流に読み解くのは却って失礼だから
「この人は本当は何が言いたいのかな?」
と襟を正して読むときがあります。
そこら辺は読書って多様なんです。
ただ、自分の持っている問題意識の強さ以上に
読み解けることはないということだけは、
はっきりしています。

(つづく)

2000-06-20-MON

BACK
戻る