第2回
何ミトン?

皆川
今日はクートラス展の会場の
アサヒビール大山崎山荘美術館で
お話をしているわけですが、
クートラスの作品、ごらんになりましたか?
三國
はい、観ました。
皆川
クートラスは、黒いセーターを、
友人からもらって、
ずっと着ていたそうですよ。
三國
はい。
すごく清潔な感じで着てらしたということを
本で拝見しました。
皆川
ニットって便利ですよね。
ぼくも、冬場に何日か出張に行くときには、
そんなにたくさん洋服を持たずに、
ニットを2~3枚、
ポンポンとかばんに入れて持っていきます。
そして、旅先でとっかえて着ています。
旅には特に、
布よりニットがすごく合うと思います。
三國
皆川さん、いまもニットをお召しですね。
それはサーマル的な編み方のニットですか?
皆川
はい、サーマル的な編地の
カシミヤのセーターです。
三國
ミナ ペルホネンさんのものですか?
皆川
いえ、ちがうんです、
友人のブランドのニットです。
サーマルは、まぁ、もともと軍の肌着ですから、
空気を含んであたたかいですね。
ふつうは綿やウールが多いんでしょうけど、
これはカシミヤで編んだものを買いました。
三國
とても似合っておられます。
皆川
カシミヤは、汗も吸うし揮発性もあるので、
糸としてはとてもいいです。
ぼくはカシミヤを、家で洗っちゃいます。
三國
私もカシミヤは家で洗います。
皆川
カシミヤを縮絨するときって、
ウールに比べると縮まらないですよね。
三國
はい、ヤギですもんね。
皆川
そうか、ヤギですね。
黒いセーターを着ていた
クートラスの作品を
ごらんになって、どうでしたか?
三國
クートラスのなかで、
小さなカードのような
「カルト」という作品群がありますが、
あれを最初に見たとき、
まるでミトンのようだと思いました。

「ロベール・クートラス《僕の夜のコンポジション 24-b》
1973年 油彩、紙 個人蔵 撮影:片村文人」

皆川
おぉ、なるほど。
三國
ミトンって、ひとつひとつ
柄を違えて作っていくことが可能です。
私はああいうアーティストではないですが、
編みものの仕事をはじめるとき、
まずミトンからスタートしました。
なぜかというと、
すごくありていに言えば、
子どもを大学にやるお金を作るためでした。
皆川
そうなんですね。
三國
けれども、ミトンを作りはじめて
すこし経ったとき、
「私はいちばん遠い道を歩いてしまった」
ということに気づきました。
ミトンひと組編むのにかかる、
時間と毛糸代を考えると‥‥。
皆川
たしかに(笑)。
三國
ひとつのミトンに
どのくらいのお金を払ってもらえるんだろう、
と考えたとき、
間違った道にいると気づきました。
しかし、私にできる
いちばん上手なことといえば、
もう、それしかありません。
「息子を学校にやるところまでに
いったい何ミトンかかるかわからないけど
とりあえずやろう」
と思って‥‥。
皆川
何ミトン(笑)。
単位になってますね。
三國
はい(笑)。
ミトンと帽子、作りためたぶんを
年に1度、会場を借りて
まとめて売りました。
皆川
1年で、何ミトンだったんですか?
三國
帽子と合わせて、90くらいです。
皆川
そうすると、週に2個くらいは
編みあげていたということになりますね。
三國
そうですね。
毎日ほんとうに「作る動物」のようになって
編んでいました。
糸を編むことって、糸を食べてるような
感じがするんですよ。
糸を食みながら
自分から生み出しているような‥‥。
皆川
なるほど(笑)。
それは見事にいろんなところに
お嫁に行ったんですか?
三國
はい、ありがたいことに。
すべてがお客さまの手に
渡っていきました。

(つづきます)
2017-02-27-MON