第1回
編みもの。

三國
これ、ほぼ日から去年出した本なんです。
『うれしいセーター』っていいます。
自己紹介がわりに持ってきたんですが、
よかったらごらんになってください。
皆川
わぁ、すごい。
ありがとうございます。
谷川俊太郎さん、桐島かれんさん、塩川いづみさん‥‥
ぼくの知ってる方が
本のなかにたくさんいらっしゃいます。
あ、このセーター、かわいいですね。
三國
皆川さん、編みものは、
なさったことはあります?
皆川
編みものは、今年の目標です。
三國
ほんとうですか?
じゃあ、作り目くらいはなさいますか?
皆川
いいえ、ぜんぜん、
まったくやったことがないんです。
じつは来月、友人が教えてくれるんですよ。
食器を洗う、あの、アクリルの‥‥。
三國
アクリルたわしでしょうか。
皆川
そうそう(笑)。そこからはじめる予定です。
どれほどの時間をかければ、
「服」までいけるのかわからないんですが、
やってみたいと思っています。
ずっと何年も、やりたかったんですよ。
‥‥「何年」どころじゃないですね、
じつは姉が、昔から編んでいたんです。
三國
ああ、そうなんですか!
それはいいですね。
皆川
はい。
高校生のころから
姉が編んでくれたセーターを着ていました。
三國
すてきです。
皆川
ぼくが絵を描いて、
姉は、それのとおりに編んでくれました。
三國
それは『うれしいセーター』の趣旨と似ています。
この本は、本に登場してくださる人の
それぞれのリクエストを聞いて編む、
というテーマで作りました。
皆川
作ったのは1点ずつだけで、
その人に向けて編んだんですか?
三國
そうです。
編み方を載せているので、
お読みになったみなさんも同じものを作れます、
という本です。
皆川
なるほど。
三國
皆川さんが編みものをなさったら、
どんなのをお作りになるんだろう?
皆川
そうですね、どうだろう。
三國
はじめたときがいちばん楽しいと思います。
皆川
そうですよね、きっと
形になっていくのがうれしいんでしょうね。
(「うれしいセーター」に掲載されている写真を見る)
‥‥これは、編地はどっちに向かってるんですか?
縦方向?
三國
いえ、これはふつうに、
下から編み上げていくんですよ。編み込みです。
最初こういう方向で編んでから、
こっちからまた目を拾って、衿もつけていくんです。
皆川
道理すらわからない(笑)。
でも、そうかなるほど、おもしろいですね。
編みものって、魔法のようです。
一本の糸で。
三國
そうですね。
皆川
機械じゃない、
まっすぐの棒を使って編んでいく。
そして形が自在に広がって、
服もできて。
三國
私は「編みもの」を伝えるような
仕事をしているわけですが、
「ものを売って手渡す」ことではなく、その先の
「作り方を渡す」「作っていただく」というところまで
求めている仕事だと思っています。
皆川
そうですよね。編みものは‥‥
ぼくは昨日たまたま、
毛糸ではじめてポンポンを作りました。
三國
それは何につけるポンポンですか?
皆川
じつは、マフラーを
ポンポンだけで作りたいと思いつきました。
それで、うちのニットの担当の人に、
「ポンポンってどう作るの?」と訊いたら
「どのくらいの大きさですか?」
といって、紙を出してきました。
三國
厚紙で作りましたか?
皆川
はい。紙に糸を巻いて、
1個のポンポンを作りました。
かわいいですね、ポンポン。
ポンポンができただけでうれしいけど、
あれは編んだことにはならないです(笑)、
まだまだだ、と。
三國
皆川さんは、お料理が得意ですよね。
皆川
料理は好きです。
絵を描くのと、
どっちが好きか、迷うくらい。
三國
そうなんですね。
皆川
だけど、編みものとピアノは
人生のどこかでやってみたいと
ずっと思っていました。
絵を描いたり、料理で包丁を動かすのは
とてもシンプルな動作です。
ぼくの手はすごく動きづらいから、
こういう編みものはちょっと‥‥。
三國
編みものは、指が全部バラバラに動きますね。
皆川
そう。
ピアノと一緒で、そこが問題なんですよ。
ぼくは、足の指も開かないんです。
みなさん、立ったら足の指は開きますよね?
三國
ええそうですね、
いちおう足の指は開きますが‥‥。
皆川
いろいろまぁ(笑)、ほんとうに、
複雑なことは昔からできないんです。
これは何度も質問されてることでしょうけど、
三國さんはいつから編みものをはじめましたか?
三國
3つくらいのときに、
祖母が教えてくれました。
皆川
3つから?
じゃあもう、指が勝手に動きます?
三國
そうですね。
自然になってしまうというか、それが普通のことで。
皆川
糸の太さや風合いで
編む強さを自然と変えていったりしますか?
三國
作りはじめるときは
編む手加減をつかむとことに少し時間をかけます。
でももう、ほんとうに私は、
それをやることで生きてる、
みたいな感じなので、だいたいわかります。
皆川
なるほど。ぼくも布をさわると、
「これが1平米でどんな重さで、
何番の糸と何番の糸が
どのくらいの密度で入っているか」
ということくらいは、なんとなくわかります。
料理も、この魚や肉に入ってる塩分は
だいたいこのくらいだな、
だとすると醤油はこのくらいかな、
と推察して調味します。
そんなふうに、慣れで覚えて動くタイプなので、
編みものの設計図を見ることがすごく苦手で‥‥。
三國さんは、本に載っているような
製図もなさるんですよね。
三國
私の手描きの編み図を
カッコよくデジタルにしてもらって
本に入れています。
ミナ ペルホネンでニットを作るときは、
どういう作業の流れでやってらっしゃるんですか?
皆川
まず糸を作ったり選んだりして、
その糸でどういう編み地にするかを決めます。
そして、サイズと作りたい表現を
絵や言葉でニッターさんに説明して
サンプルを作っていただきます。
「もうちょっと、ここをこうしたいです」と
2~3回やりとりして、それで決めます。
ミナ ペルホネンの手編み担当は神戸の方で、
19年くらいずっと同じ人がやってくださっています。
三國
そうなんですか。
皆川
ほかの編み手さんと
いっしょにやってらっしゃるんですが、
その担当の方がいま、
70歳を超えておられるので
「春夏はできないんだ」とか、
「秋冬だけで1年分やります」とか、
そういう感じでお仕事を進めているんです。

(つづきます)

2017-02-24-FRI