80's
『豆炭とパソコン』のひとり旅。

第29回

本を作る第一工程は、
文字やイラストの原稿と
それらを割り付けたレイアウトを一緒にして
印刷所に渡す「入稿」と呼ばれる作業です。
印刷所では、入稿された原稿をレイアウトに従って
指定された写植に置き換えて刷り出した「校正紙」を
作ってくれます。
出版社はこの校正紙を受け取ると、
写植の打ち間違いがないかどうか、
確認の朱を入れて、再び印刷所に戻します。
この校正紙のやりとりを何度か繰り返して
本は完成に向かっていくわけです。

いよいよ『豆炭とパソコン』も入稿が進み、
最初の校正紙が出てきました。
入稿する前に、書き下ろし部分はもちろんのこと、
連載のダイジェストやらミーちゃんの日記やら、
それぞれの部分をしっかり読み込んではいるのですが、
実際の本のレイアウト上に組まれた活字を読むと、
また印象が違うものです。
私は早速バイク便を飛ばして
糸井さんに校正紙の束を届けました。
すると、糸井さんからこんなメールが送られてきました。
送信時刻は、5:06 AM。

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丸井さん、永田くん、
いま、昨夜受け取った「校正紙」を、
あしたじっくりやって戻そう、と思いつつ、
全体の感じをつかむために読んでいました。

ところが、これは、おもしろい!
永田テレコマンが、力をふりしぼって力を抜いているのも、
丸井さんが、構成について
くるしみつつ答えを見つけた感じも、
祖父江さんの読ませ方も、
とにかく、全部、いい!
自分が考えていたことやしゃべったことも、好き。

ここには人々の「勇気」を引き出すアウラがあります。
もしかしたら、この本はすごいかもしれない。

こういうかたちで、現在に「答え」を出している本って、
他にないもん(だから、だめだということもあるけれど)。

★ヒュウマのように、ぼくは早朝の南青山で、
 言いたい。
「オレはいまもーれつにかんどーしている」

明日、校正を終えますからね。

うれしいじょー。
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「ワタシもいまもーれつにかんどーしている!」
本を作って何よりも嬉しいのは、
もちろん読者が手にとって読んでくださることですが、
著者に「作ってヨカッタ!」と喜ばれることも
同じぐらい嬉しいものです。
私はこのメールを読んだ瞬間、
それまでの悩みも苦しみも、
すべて吹き飛んでしまいました。
まるで、荒波に揉まれて必死に舵取りをしているうちに、
いつのまにか波も凪いで、ふと顔をあげたら目的の島は
もうすぐそこに見えていた・・・というような感じです。
しかも、島では糸井さんが笑顔で手を振っているでは
ありませんか!
喜びのあまり、疲れも忘れて
「もう少しだ。頑張ろう!」と
目いっぱい帆を張って全速前進したい気分です。
「いい!」と言ってもらえるだけで、
こんなにも元気と勇気が湧いてくるのか、と
あらためて実感しました。

そして同時に、糸井さんから何度か聞いていた
「インターネットの向こう側には、なんだかわからない
 大きな“モノ”があると思ってる人も多いけれど、
 そうじゃなくて“人”がいるんです。
 なんでも“人”がやってるんだってことを
 わかってほしいよね」
という言葉を思い出して、何だかとても心に沁みました。

インターネットそのものが、
私たちに何かをはたらきかけてくるのではありません。
大切なのは、インターネットを通じて
つながった先の「人」と
泣いたり笑ったり、落ち込んだり頑張ったり、
そんな日々の営みを共感できることなんだよなあ、
と今さらながら思いました。
私たちは、糸井さんが毎日頑張っている様子を
逐一眺めているわけではないし、
逆に、本を作っている私たちも、
悩んだり迷ったりしている様子を
糸井さんに全て見せているわけではありません。
でも、目に見えない時間をこうしてお互いに思いやったり
認めあったりできるのは、
相手が「人」だと思っているからこそ
できることなんじゃないかと思いました。

インターネットを通じて運ばれてきた1通の手紙で
こんなにも「人」を知ることになろうとは・・・。
私はあまりにも嬉しかったので、
実はこのメールはプリントアウトして、
今でも大切な記念品としてとってあります。

2001-02-28-WED

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