80's
『豆炭とパソコン』のひとり旅。

第18回

さて、今回から再びまるいが、
「ひとり旅」を引き継ぎたいと思います。

前回の永田さんの記述にもあったように、
永田さんと一緒にミーちゃんのお宅を訪問したことで、
糸井さんの頭の中にあるこの本のイメージを
私は朧気ながら感じることが
できたような気がしていました。
そこで、先ずは本のタイトルを見直すことから
始めることにしました。

私は当初、
連載時のタイトルである
「80代からのインターネット入門」を
そのまま本のタイトルとして出してもいいんじゃないか?と
考えていました。
一般的に新しいものには手を出さない高齢者が、
インターネットという新しい世界に一歩を踏み出す!
そんな図式の意外性を
このタイトルは端的に表現していましたし、
私が「この連載を本にしよう!」と
思うに到った要因のひとつにも、
タイトルの妙は確実に含まれてたからです。

しかし、糸井さんとのそれまでの打ち合わせの中で
「タイトルは、変えた方がいいですね」という話が
出ていたことや、ミーちゃんの暮らしに思いを馳せ、
糸井さんにこの本で何を訴えてほしいかを考えるにつれ、
「80代〜」というタイトルだけでは
この本の意図するものを
十分にアピールしきれないのではないか?と
思い始めました。

ただ「ほぼ日」読者の間では、
「80代〜」はすっかりお馴染みのタイトルなので、
これはこれで本の“帯”(本のカバーの上に掛けられている
腰巻きのことです)でしっかり謳うことにして、
メインとなるタイトルは別途違うものを考えてみよう、
ということになりました。

さて「メインタイトルはオリジナルで」と
決まったまではよかったのですが、
実際、なかなか「これだっ!」という
タイトルが思い浮かびません。
そこで上司のミヤケ課長も巻き込んで、
にわかにコピーライター修行(しかも勝手に弟子入り)が
始まりました。
移動の電車内でもお風呂の中でも、とにかく四六時中、
悶え苦しみながらタイトル案を絞り出し、
何本かまとまったところでミヤケ課長がふるいにかけ、
さらにそこで生き残ったものを糸井さんに投げかけてみる、
ということを何度も繰り返しました。

今振り返ると「やってもうたぁ!」ではありますが、
そうやって一体どんなタイトル案が出ていたのか、
NGになったタイトル案をいくつか並べてみましょう。
「母をたずねて3000メガバイト」
「WEB的親子論」
「老人新時代」
「愛と欲望の親孝行」
私的には、考えに考えて絞り出した
渾身の作品のつもりでしたが、
いずれも糸井さんにすげなく却下されてしまいました。

そして、出来損ないの弟子の答案を不憫に思った師匠から、
次のような解答例が返信されてきました。
「年はとるほどおもしろい」
「旅めし花」
「娘のままで生きられる」

ふーむ、なるほど・・・。
ここに至って私は、
糸井さんの考えているタイトルの方向が、
私が狙わんとしている方向と
微妙にズレているらしいことに気づきました。
私が提案したタイトル案のほとんどに
「母」や「親子」という単語が
キーワードとして使われているのに対し、
糸井さんから提示されたものには、
それらの単語が全く使われていません。
どうやら糸井さんは、タイトルに関しては、
親子の関係がどうこうというのではなく、
80歳の女性がどんなに素敵な暮らしを送っているか、
ということを伝えることに重きを置いているようです。

私は糸井さんから示された解答例をヒントに、
タイトル案をさらに考えました。
ミーちゃんの生活と言えば、まさに「旅めし花」。
つまり、「旅行」「おいしい食事」「毎日の花の世話」、
そして息子から送りつけられた「パソコン」・・・。
そうやって考えるうちに、
80歳女性の暮らしを象徴するものと、
そこにとけ込んでいるパソコンを
並べて見せてはどうだろう、と思いつきました。

そういえば、私たちがミーちゃんのお宅を訪問したときに、
まず楽しそうに説明してくださったのが
「豆炭炬燵」の仕組みと毎日の仕度のことでした。
冬になると、
朝晩に炬燵の豆炭を取り替える仕事が増えるのよ、と。
その仕組みが、どんなによくできていて、
自身で決めて毎日行うその仕度が、どれほど効率よく
寒さを凌ぐことに役立っているのか、ということを、
楽しそうに話すミーちゃんの顔が目に浮かびました。
そして、ダイニングに当然のように鎮座する
パソコンのことを話してくださったときも、
豆炭炬燵の話のときと同じくらい
楽しそうな顔だったことを思い出しました。

こうして何度目か忘れた頃に提出した
「豆炭とパソコン」で、ようやく私は、師匠から
「ぼくはけっこういいと思う」という
とりあえずの及第点をいただくことができたのでした。

2000-12-06-WED

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