YOSHIMOTO
吉本隆明・まかないめし。
居間でしゃべった
まんまのインタビュー。

第9回。

98・10月のある土曜日。吉本隆明さんの家。
場所は、吉本さんの家。

長い長い話をしたものを、細切れに
ここに掲載しております。

「週刊プレイボーイ」でも、
『吉本隆明・悪人正気頁』という
変則的な人生相談の企画もスタートしました。
合わせてお読みください。
できましたらなんですが、新しい読者の方々は、
はじめからお読みになってくださることを希望します。
で、この第9回は、
<アメリカのことを話している・3>です。
しかし!本当に申し訳ないことなのですが、
少しずつ頻繁に掲載していこうとしたら、
実はちょっと不都合が出てきてしまいました。
今回、せっかく吉本さんのページなのに、
イトイがしゃべっているばっかりなんです。
吉本ファンの方は、うなづきつつ聞いている吉本隆明を
想像することで、しょうがねぇか、とあきらめてください。

糸井 僕は、前に、モノポリーというゲームの
世界大会に出たんですけど、
笑っちゃうほど、国民性が出てたんですよ。
アメリカ代表の親父っていうのが、
明らかに強いんですよ、腕も。
恐らく水準が一番上なのは、絶対、日本人だったんですが。
さっきの硫黄島じゃないですけども。

で、アメリカ人の親父が、多分全メンバー中で、
一番年上だったんですけど、
前の日のパーティーからもう「試合」しているんですよ。
弱小国のやつを集めては演説してるんですよ、
パーティーのときに。
英語が通じる人たちを、自分の周囲に、
さんざんサービスして集めて、
アメリカ人の周りに人垣ができてる状態にして。
このゲームっていうのは、こうおもしろいだの、
ああおもしろいだの言うんだけど、
それはやつの思うままにゲームを運ぶための、
翌日の試合のためのまき餌なんですよ。
吉本 (笑)うーん。
 
糸井 で、翌日になって。
演説聞いた人々は、
なるほどな、あの人の言うとおりだな、と。
全米チャンピオンですからね。
理にかなったことを言うわけですよね。

例えばテーブルごとに分かれてゲームしているときも、
他の国同士の人が交渉してるときでも、
まるで国連のように出てきて、
「いや、君、それは、こうじゃないか」とか言うんですよ。
で、もう、全く国際政治と同じに、すごいんですよ。
彼が言ってることのとおりにやると、
少し延命するんです、各、各国が。

ところが、絶対に言うことを聞かない
という人もいるわけです。すっごく弱い人たちとか、
勝ちきる自信のない人たちは、
何にも交渉しなければ、当面、
そのときには死なないんですけど、すぐ死ぬんですよ。
国交断絶型ですかね(笑)。

で、アメリカの言い分を聞いていると、
ちょっと生き延びるんですよ。そっくり、現実の政治と。
最後に勝つのはアメリカっていうシステムで、
何となく進んでいっているんですね。

それ、ベルリン大会のときだったんですけど。
そいつ、アメリカ人、優勝しなかったんですけどね。
やっぱり全部を掌握したって思ってても、
わけのわからない動きをする国があるわけで。
文化摩擦がゲーム的にもあるんですよ。

早い話が、あのゲームって、
せき払い一つも、他のプレイヤーに聞かせるために、
戦略としてせき払いするようなところがあるんですね。
例えばほかの人が交渉しているときに、
「まずいなぁ、それは」っていうのを、
ひとり言のようにつぶやくでしょ、すると、
「おっ、こいつは、これをやるとまずいのか」というのを、
無意識に聞いてるわけですね、敵が。
そういうようなのを戦略として、
ゲームテクニックとしてやるんですよ。

で、そういうテクニックを前日にまで広げ、
深くしたのが、アメリカ人のやり方で。
僕らは、逆に、東京でやっているときの、
そういう高度なテクニックが、
英語ができないもんで使えないんですよ。

つまり、「あら、あら、あらっ」というような一言が
ゲームでは効くんですね、実は、戦略としては。
それができないもんだから、やっぱり、
その英語っていう国際語で、
下手な言葉を正確に最低限言うだけの交渉しか
できないんで、相当損なんですよ。
英語が独り言のレベルで使えないと損ですね。

ただ、ルールにのっとった形で、
一番、将棋さしぐらいの戦略を持って臨んでいるのは、
僕らだけだと思うんで、その意味では、強いんですよ。

だから、やっぱり、日本人の、
僕の友達のチャンピオンが出場していて、
その大会では、もうほんとうにツキがなかったんですけど、
二位で終わったんですけども。
やっぱり、実力があるんですね。
アメリカ人はもっと前に、転んでたんですから。

そう考えると、これはもう、
ゲームと全く同じじゃないんですけども、やっぱり、
通じない人たちが、何するかわからないというのがあって、
意外に、そいう勢力まとめると、数が多いんですね。

「なぜ、君は正しいこのことをしないんだ」というのを、
いくらロジックで責めたてられても、
嫌なものは嫌で、さっきの最初の
人間理解の話じゃないですけど、
人間って、やっぱり、しようがないもんなんでね。
プライドだとか、くせだとか、そのときのムードだとか、
コントロールできそうで、できないものが
山ほどあるんですね。

それは、エリートビジネスマン同士の国際会議で、
解決できないと思うんですね。

死んでも特攻するやつがいたりするなんてことを、
やっぱり、いくら映画では描いてても、
アメリカの方法ではできないんだと思うんですよね。
意外に、全部を足すと、
小さいブロックを全部集めたほうが、
一番大きいひとつのブロックよりも大きいんですよ。
そのことに、アメリカ人でも気づいてる人がいる
のはわかるんですけどね。

ですから、外資系企業の
日本のトップやっているような人が、
「僕だっていつ首になるかわかんないですよ」とか
言いながらも、新しい動きを、
アメリカ人の言うマニュアルどおりにやらなくて、
できるはずだという動きをやって、
うまくいっている人がいたりすると、
「それはあるな」というふうに、
ちゃんと泳がせるアメリカ人も、また、いるんですね。
そこでの国際交流というのは、これは、
一番高度だと思うんですね。

ただ、その、全世界をつかめるような戦略は、
そこでは、やっぱり生まれないんですよ。
やっぱり、マイクロソフトの戦略みたいなところで、
一番母数の多いところをねらうには、どうしたらいいか。

この間、ある国際的企業の人と話していてて、
三十過ぎくらいの人なんだけど、
母数という考え方、すごく重んじるんですね。

母数が多ければ、ビジネスチャンスは大きい。
そういうシンプルな考えがあるらしい。
とにかく、どんな国でも、人工の3〜5%は金持っている
っていうわけですよ。

例えば、中国の人口のうちの3%から5%は金持ちだ。
そうすると、日本の金持ちの数よりも、
中国の3%をねらったほうが、
商品はたくさんはけるんですって。
あたりまえの考え方らしいんですけど、
僕なんか、へーって感心しちゃった。
とてもアメリカ型の考えの企業なんで、
きっと本部の社員たちには常識なんでしょうけど。

この考え方は、やっぱり、
さっきのじゅうたん爆撃なんですよ。
これは、おれらには、どうしても、
戦略がどうだの、その作戦は格好いいなみたいなことを
言っている人たちには、その、
思ってもやりたくないんですよ。

母数掛ける3%というのは、
とにかくどの国でも金持ちなんですって。
何でも買える人たちがそのぐらいいるんだ
というふうな発想で、
あらゆる国の富裕層を攻めていくような戦略というのは、
確かにやる人たちは、金は入るんですね。
ビジネスの成功もあるんですよ。

でも、その男の子として、短い人生を、
人生わずか五十年を生きていくときに、
幸福感からいうと、おーっ儲かったなって
拍手をもらったところで、飯は三度しか食えないし、
着る物だって、何度も着替えるわけにはいかないんだし、
どんなにもてちゃったって、
人工的な美女のハーレムをつくるのが精いっぱいだし、
どんちゃん騒ぎしたって疲れるしって考えると、
果して、今一番次の時代に重要なのは、やっぱり、
短い人生をどういうふうに生きていくかという
「幸福観」なんじゃないだろうか。

1999-04-30-FRI

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