magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


誰かのための楽屋話

ある日の、落語会での楽屋風景。

師匠は私に向かって話し続けている。
でも、師匠が本当に聴いてほしいのは、
きっとお弟子さんたちなのだ。

だが、お弟子さんたちは忙しそうにしていて、
師匠の声さえ届いてないようだ。

師匠はそれでもかまわず、
「ただしゃべってるのを
 聴いてもらうんじゃもったいない。
 
 ついでに笑ってもらおう、
 くらいの気持ちで(高座に)
 上がりゃぁ、いいんだよ。
 そんなに力んで上がるもんじゃない(笑)」

ただ普通にマジックをしてても、もったいない。
驚いてもらうついでに笑ってもらうとするか。
そう思うと、気が楽になるなぁ。

「日本語はね、五、七、五が、
 聴いてて心地いいんだよね。
 楽しいというか、面白く聴こえるというか。

 ひょいっと 見るってぇとぉ 川の向こうに
 そりゃもう 見たことのない 美しい 美人の女。
 美しい 美人の女 あ〜こりゃぁ 珍しい(笑)」

ありがたいなぁと、しみじみ思う。
なんせ、師匠のお手本を
真横でタダで聴けちゃうんだから。

なるほどねぇ、五、七、五、かぁ。
『手品師は、人をダマして、飯を食い』
みたいな感じですかねぇ。

「でもねぇ、最近、思うんだよね。
 どうもねぇ、自分が幸せだと、
 笑いは取れないのかなぁと思っちゃってね。

 不幸な人が不幸を笑いにすると、
 それが妙に、おかしいんだよ。
 なんだろうねぇ、そういう笑いっていうのは」

そういえば、お笑いマジシャンというのも、
どこか不幸な人の方が味があるような。

だいたい、ハッピーなマジシャンの
素晴らしいマジックなんて、
見ていてだんだんと不愉快になる(笑)。

「ちょいと遠いところなんだけど、
 金が落ちてるから拾いにきなよ、なんて言うから、
 わざわざ飛行機に乗ってまで行くんだよね。

 もうちょっと近いところに
 金が落ちてりゃぁいいのになぁ。
 浅草とか上野とか(笑)」

ごもっとも。
いちばん近い自宅に落ちてんのは、せいぜい小銭(笑)。

「最後にクスッと笑ってもらえりゃ、立派な落語」

最後に小さく驚いてもらえれば、立派なマジシャン。
そういうことにしとこう。
うん、そうしよう。

では師匠、お先に勉強させていただきます。
「はいはい、ごくろうさん。
 きばっちゃダメですよ、
 あとがやりづらいから(笑)」


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2018-08-19-SUN
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