おいらが誰かの涙になる
なんだか、心の中に涙のグラスを感じてる。
実は、親しい人が亡くなっちゃって。
彼が亡くなる前に何度か電話もらって、
「ちょっと深刻でね。
あと、何ヶ月かってとこだね」
声はちっとも変わらなくて、
ちっとも深刻に聞こえなくて。
おいらは、ついつい泣いちゃって。
「ごめんなさいね、
泣かせるつもりはないんだけど」
おいらはボロボロ泣きつつも、
「そんなはずないよ、なんかの間違いだよ、
きっと」
なんて思い込もうとして。
もう一度、電話もらったのに、
仕事中で出られなかったんだよね。
で、その数日後に訃報を聞いちゃった。
悔しかった。
なんで電話に出られなかったのか、
彼は最後の最後に、
おいらに何を言いたかったんだろう。
更に悔しいのは、おいらは彼にとって
普通の友達の中のひとり、くらいに思ってたんだよ。
だから、こっちから電話するのを遠慮してた。
電話すりゃぁよかったとか、
親しい気持ちをじかに伝えればよかった、とか。
でも、後悔先に立たず。
心の中のグラスに、涙がたまっていくんだよ。
ポトリ、ポトリ、たまっていくんだよ。
もう、驚くほどいっぱい。
で、ちっとも蒸発しない。
怒りのグラス、なんてのもあるのかもね。
怒りもグラスにたまるんだけど、やっぱりさ、
蒸発させる術を学ぶんだよね。
年食うにつれてね。
だけど、涙は一向に蒸発しないんだよ。
それどころか、年につれてポロリ、ポロリ。
こないだ、SNSでおいらと同じような経験を
書いてる女性がいてさ。
彼女も悔やんでた。
どうして、
「会いたいな」
という友達の声に応えなかったんだろう。
友達の慕う気持ちを、
やはり軽く思っちゃったんだろうね。
きっと、自分が友達にとって
それほどの存在だと思えなかったんだろうね。
彼女の涙のグラスも、
いっぱいいっぱいなんだろう。
でもね、おいらだけでも彼女だけでもないんだよ、
きっと。
誰のグラスにも涙がいっぱいなんだろうね。
みんな、大切な人と出会い、
突然に失ってしまうんだよ。
涙と一緒に、記憶っていうのもたまっていく。
みんな、誰かの心の中で懐かしく、
切なく生きているはず。
涙は絶対に蒸発しないよ。
涙はたまり続ける。
もし、おいらのグラスの涙が
蒸発する日があるとしたら、
それはおいらが誰かの涙になる日、なんだろうね。
 
|
