magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


私はマジシャン、時々アシスタント

140人が集うパーティに招かれましたよ。
といっても、マジックの仕事じゃなくて。

140人分の料理をその場で作り上げる
シェフたちのお手伝い、
アシスタントに指名されたのだ。

私はむかしむかし、初代・引田天功に弟子入りし、
偉大なマジシャンの立ち居振る舞いを
そばで見つめるという青春を過ごした。

自分ではまったくできないことを、
才能と技術で鮮やかにやってのけてしまう師匠の姿を、
袖からウットリと見つめていたのだ。

そんな原体験からか、美味なる料理を
マジックのように創り出すシェフの手さばきを、
横から見つめることが大好きなのだ。

さて、今回のパーティでは
3人のシェフの皆さんが腕をふるうという。

私はシェフたちのまわりをちょこちょこと歩き回り、
人参をこまかく切ったり
玉ねぎをすりおろしたりの下ごしらえを担当。

シェフが、焼きあがった肉のはじっこを味見する。
私はすかさず、
「ど、どうですか?」
と聞く。

シェフは黙ったまま、
私の口に香ばしい肉片を放り込む。
あぁ、うまい、脂が舌にトロトロ、たまりません。

始めアシスタント&味見係り、
途中から盗み喰い係りに変身する私。
ふっふっふ。

料理の前に、ひとりあたり6個×140人=840個の
プラスチック製のグラスを
手作業で作らなければならない。

ひとりの客がビール、赤ワイン、白ワイン、
あるいはシャンパン、ウイスキーなど、
グラスを取っ替えつつ飲むからだ。

ひたすらグラスの足とカップをくっつける単純作業。
でも、この単純作業が大好き。

作り続けていると、どんどん上達する。
組み立てるのが早くなる。
なんだかうれしい。

マジックだと、こうはいかない。
ネタの練習を何度くり返しても、
本番で失敗したりする。

完璧にできたマジックなのに、
反応はイマイチということもある。

毎回毎回、できたりできなかったり。
ちっとも満足できるマジック、
マジシャンにはなれない。

そこへいくと、グラスの組み立ては
目に見えて上達する。

グラスが目の前に積み上がり、
「私はマジックは苦手だけど、
 グラスの組み立ては天才かもね、むふふふ」

パーティが始まった。
140人がいっせいに料理にかぶりつく。

そのご馳走の人参は私が切ったんだよ。
肉ソースの玉ねぎは、私がすりおろしたんだよ。
もっと、じっくり味わってくれよ。

シェフたちがグラスを持って近づいてきた。

「お疲れさまでした。
 次は料理のひとつくらい、
 小石さんにまかせようかな」

私はうれしくなって、グラスのワインを一気飲み。
空になったグラスに、

「これは、わたしたちだけで、飲みましょう」

シェフお気に入りのワインを注いでくれた。


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2018-06-03-SUN
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