magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『幸せになれる魔法のパンツ』


アレマー玉井くんから電話があった。
「アレマー玉井でございます!
 今、東京にきています!
 どこかで会えないでしょうか?」

アレマー玉井くんはプロのマジシャンである。
富山県在住で、主な活動場所も富山県内。

数年前に、富山県高岡市で
お笑いのコンテストがあった。
玉井くんはお笑いマジックでコンテストに出て、
見事に優勝したのだった。

私はコンテストのゲスト出演者で、
会場で出会ったのだが、彼はすぐに、
「ナポレオンズさんに弟子入りしたいです」
と言う。

東京に出て、弟子として修行したいと考えていたのだ。

しかし、今や東京で風呂なしの小さなアパートを借り、
台所で体や頭を洗うなどという苦労は
時代遅れだと感じていた私は、
地元でプロ活動することを勧めたのだった。

私は彼の芸名を考え、『アレマー玉井』と命名した。

今ではローカル局の番組にも
レギュラー出演したりして、
すっかり地元の有名人になっている。

時々、富山のお米や栄養ドリンクなどを
土産に持ってきてくれる。

もう少し儲かったら、富山のお酒や海産物なども
私に送ってほしいと切に願っている。

そんなアレマー玉井くんと、
今回も新宿のデパートで会うことにした。

ふたりで高級紳士服のコーナーに行き、
スーツやらジャケットなどを試着してみる。

世の中には、信じられないくらい高い服があるもんだ。
「ベイビィ・アルパカのジャケットでして、
 暖かくて軽いです」

確かに素晴らしいが、35万円もする。
同じブランドのパンツが18万円、靴が12万円、
靴下だって3万円もする。

2人で必ず試着してみるが、
買わずに次のブランドに移動、
着てみて値段を見て、
「ウヒョ〜!」
などと驚き笑いつつ、デパートを歩き回るのだ。

誠に迷惑な客っぷりなのだが、これが実に楽しい。

不思議なことに、これだけで心が高揚してくる。
アレマー玉井くんの顔色も紅潮していて、楽しそう。

「そうだ、玉井くん、君も高級なのをひとつだけ、
 買いなよ。
 パンツ、下着のパンツね、いいのがあるんだよ」

私も3枚持っている、1枚1万2千円の高級パンツ。

「えっ? 1万2千円のパンツ?
 それを履くと、どうなるんですか?」

「幸せなマジシャンになれるんだよ。
 35万円のジャケットを着て
 マジックするのもいいけど、
 預金残高が大幅に減ってしまって
 幸せなマジシャンにはなれないよ。

 だけどね、1万2千円のパンツを履いてみなよ。
 そりゃぁ贅沢な気分でマジックができるんだよ。
 それで、幸せなマジシャンになれるってわけさ」

アレマー玉井くんは高級パンツを買って
富山に帰って行った。

今頃は高級パンツを履き、
幸せなマジシャンになって
バリバリ仕事をこなしているに違いない。

アレマー玉井くん、幸せに働いて稼いだら、
富山県の名産品をたくさん送ってね。
そして、また一緒に高級パンツを買いに行こうね。

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2017-12-03-SUN
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