magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『渡されたものは』


私だけの仕事が入った。

相方もなし、アシスタントもいない、
私ひとり公演である。

失礼な人がいて、
「えっ? 小石さんだけの公演て、
 いったい何をやるんですか?」
なんて聞かれたりする。

私だって、マジック界に長く存在している。
『門前の小僧、習わぬ経を読み』のごとく、
様々なマジックを見て、
「はは〜ん、アレのアレは、あぁなっているのか」
と知らず知らずに覚えたのですよ。

こないだなんか、なんと60分の講演ですよ。
マジックはもちろん、面白おかしく、
『人はなぜダマされるのか?
 ダマされないためには?』
と題して大いに語り、マジックを披露しましたよ。

まぁ、それはともかく、
講演を終えて控え室で片付けをしていると、
知らないおじさんが入ってきて、
「あのぉ、今日は相方さんはいないんですか?」

今日は私ひとりの講演だと、チラシにも書いてある。
ひとりに決まってるではないか。

すると、おじさん、
「そうですかぁ、残念だなぁ。
 わたし、相方さんのマジックが大好きでねぇ。
 会えたらと思ってねぇ、土産を持ってきたんで、
 帰ったら渡してもらえますかぁ?」

たまにいるんだよ、こういうおじさん。

コンビを組んでいて、
テレビには一緒に出ているけれど、
普段から一緒に住んでいるわけないじゃないの。

だから、
「帰ったら渡して」
と言われても、帰ったら相方が、
「お帰りなさい、お疲れ様でした」
なんて迎えてくれるわけがないでしょ。

万が一にも、迎えられたら恐い。

そりゃぁ、コンビで同じ住まいの人がいても
それはそれで自由、なんの問題もないけれど、
我々は違うところに住んでいるのですよ。

でも、こういうおじさんにはそんなことが通じない。

だから、仕方なく、
「じゃぁ、帰ったら早めに渡しますよ」
そう言って土産とやらを受け取る。

それはそれで仕方ないのだが、
もしも、もしも土産がすごく高級なもの、
あるいは珍しいものだったりすると、
私の中の悪魔が目を覚ましてしまうから困るのだ。

「あれれ、こりゃぁ有名な洋菓子ではないか。
 こんな美味しいものを
 相方に食わすのはもったいないよ。
 私がありがたくいただくことにしよう」

でも待てよ、おじさんが相方に、
「お菓子、届きましたかぁ?」
なんて問い合わせたら、私の悪事がバレバレじゃないか。

「大丈夫、東京駅とかで似たような、
 安い菓子を買って相方に渡し、
 有名な方はお前が食べちゃえばいいんだよ。
 同じ洋菓子だったら相方も疑わないだろうよ」

さすが悪魔、おぬしもワルよのう。
なんてね、ついつい悪魔に魂を売ってしまいかねない。

などと考えを巡らせていると、
先日の出来事を思い出した。

相方が、
「これさぁ、小石さんにって、
 知らないおじさんがくれたんだよ」

そう言って、
ラーメンの詰め合わせを渡されたことがあった。

あれって、本当は
高級なフカヒレ拉麺の詰め合わせとかじゃ
なかったのかい?
相方さんよ。

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2017-05-21-SUN
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