magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『私は近未来の寄席風景を見た』


都内某所で仕事があった。
寒い朝だったのでダウンを重ね着して出かけた。

控え室は暖房が入っていて暖かい。
というか、暑い。
そこでダウンを脱ぎ、その下のダウンベストも脱ぎ、
ついでにフルジップのセーターを脱いだ。

私は寒がりの暑がりで、外では厚着、
中は薄着でいたいと考えているのだ。
そこで、着るのはいつもフルジップタイプの服ばかり。

友人たちと居酒屋に行き鍋などつつく時には、
もう次から次へと脱いでいく。
最後はTシャツ姿になるのが理想なのだ。

友人たちは呆れて、
「始まったよ、
 見たくないおじさんのストリップショー。
 それとも、早変わりマジックの練習かい?」

さて、今日の仕事は
大きな会場にパイプ椅子を並べた特設ステージ。

漫談、講談に続いて私たちのマジック、
お仕舞いに落語へと続く。

2階からステージの様子を伺うと、
驚いたことに司会進行として登場したのは
ロボットであった。

最近、あちこちの店頭に
ロボットが立っているのを見ることはあるが、
まさか寄席演芸の司会者がロボットとは。

食い入るように見つめていると、
その司会進行の滑らかなこと。
しかも、ロボットは緊張などとも無縁、滑舌も滑らか。

一応、横に人間の司会者がいるのだが、
人間の方が時に言い淀んだりしていている。

ロボットは身振り手振り、
面白おかしく今日の趣旨などを観客に伝え、
なんと、ウケているではないか。

ロボットに紹介されて、人間の漫談家が登場した。
私は、漫談家もロボットのしゃべりの巧みさに
気圧されるかと危惧したが、さすがベテランの芸人さん、
ロボットには一切触れずにネタに入った。

人間の漫談を聞きながら、私はあれこれ夢想した。
「こりゃぁ近い将来、ロボット漫談、
 ロボット落語なるものが出現するかもなぁ」

ロボットのしゃべりは、
プログラマーのような人が入力しているのだろうか。

それならば、例えば名人の噺を
口調や間(ま)も丁寧にロボットに入力すれば、
見事な落語を展開するに違いない。

そりゃまぁ、見た目はなかなか本物の名人のようには
創れないかもしれないが、噺はかなり再現できるだろう。

「ギャラが安ければ、ロボット落語家でいいよ」
なんていうクライアントもいたりして。

出番になり、私はいつものようにしゃべり出した。
しかし、ロボットと張り合うように、
いつもより大きな声になる。

「ロボットよりウケなくっちゃ」
ついつい、意識してしまう。

相方に、
「なんだ、ロボットの方がウケるのかぁ。
 それにロボットなら『ギャラを半分よこせ』とは
 言わないし。

 充電してあげれば文句も言わないだろう。
 よし! 小石はクビにしてロボット採用!」
なんて決断されたくはない。

袖で担当者が、
「実は、ロボットにも
 『あったま・ぐるぐる』を
 やらせてみたんですよ。
 
 でも、まるでウケないんですよ。
 なんせロボットですから、
 頭がぐるぐる回っても不思議じゃないんですよね、
 あっはっは」

どうやら、私の『あったま・ぐるぐる』は
ロボットに勝利したらしい。

「ふっふっふ、あっはっは、いっひっひ」
大人げなく喜ぶ私を、
ロボットがジッと見つめているような気がした。

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2017-01-22 -SUN
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