magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『◯◯ジジィ』


昔々、ある団地に腹黒い、悪知恵だけが働く
悪い悪いお爺さんが住んでいました。

悪いお爺さんは階上の住人のところに行って、
「お宅の足音がうるさくて、
 ワシはノイローゼになりそうじゃ。
 ワシの家の天井を防音にするから、
 その分の金を出しなさい」

お隣はもちろん、団地のあちらこちらに
苦情を持ち込んで、
金やら物やらをせしめるのでした。

団地の住民たちは口々に、
「まったく困った人がいるもんですねぇ。
 妙に悪知恵が働いて、
 結局皆さん、面倒だから仕方なく
 お金で解決しちゃうのよ」

そう言って、皆で恨みを募らせるのでした。

すると、不思議なもので、大勢の皆さんの恨みが
悪いお爺さんに集まり、
お爺さんの心身に降り積もったらしく、
お爺さんはひどい風邪をひいたりして、
ずいぶんと老け込んでしまいましたとさ。

さて、この団地のお隣の団地には、
バカなお爺さんが住んでいました。
長く団地に住んでいるので、
年功序列でいつしか自治会の長になりました。

お爺さんはバカなので、
小さな権威が嬉しくてなりません。
「とうとう、ワシの天下がやってきたわい」

団地内を歩いて、
おとなしそうな住人を見つけると、
「あー、これこれ、あーしなさい、こーしなさい」
などと、いばりたがるのでした。

団地の住民たちは口々に、
「困りましたねぇ。
 単なるバカだから実害はないんだけれど、
 あっちこっちで人を呼び止めては、
 いばりたがるんですから」

「こないだなんか、
 わざわざ自分の息子を呼んでおいて、
 息子の前で住民にあーしろこーしろ。
 自分は偉いんだよと、
 息子に見せようとしてるんですよ」

「救いようのないバカねぇ」
そう呆れつつ、皆さん恨みを募らせるのでした。

しかし、バカなお爺さんは
いつまで経っても風邪をひかず、元気なのでした。
住民たちの恨みは、
バカなお爺さんには少しも効かないのでした。

「昔から言うわよねぇ。
 バカは風邪ひかないって」

バカなお爺さんは
今日も団地のお婆さんたちに向かって、
「お婆さんとお爺さん、どっちがこわい?
 そりゃぁお婆さんに決まっとるよ。
 昔っから鬼ババァとは言うけど、
 鬼ジジィとは言わんからなぁ、
 ほっほっほ」

笑いながら去るバカなお爺さんの背中に向かって、
お婆さんたちがいっせいに、
「くそジジィ〜!」

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2016-10-09-SUN
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