magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『私の竜宮城』


「小石さん、イカ釣りに行きませんか?」

イカ釣りなんてしたことない。
岐阜という海なし県で生まれ育った私には、
これまで海釣りとはまるでご縁がなかったのだ。

人生初の海釣り、それもイカ釣りなんて初も初。
「はいはい〜、行きます行きます」
即答する私であった。

早朝に羽田集合、飛行機で出雲空港へ。
1時間で出雲空港着、プロペラ機に乗り換えて30分、
隠岐の島に初上陸。

すぐさまイカ釣りに出港、ということにはならず、
鮮魚屋さんの家に上がりこみ、
まずはイカの美味しさを味わってみましょうという、
実に丁寧な段取り。

「ウチの屋上で干したイカだよ」
最初に出てきたのはさきイカだった。
少しガッカリしつつ、さきイカを食べた。

だが、これが旨いのなんの。
なんとも言えない塩加減、あぁ旨い。
噛み締めて飲み込んで、すぐ次の手が出る。

山盛りのさきイカが消えたころ、
イカ刺しの皿がテーブルに登場。
色んな部位ごとに切り分けられ盛り付けられ、
見た目からして旨そう。

あぁ旨い、あぁ甘い。
こんな旨い甘いコリコリのイカのゲソなんて
食べたことない。

こりゃ身よりも旨いかも、なんて思うのだが、
すぐさま身の旨さ甘さのトリコとなる。
でもやっぱりとゲソに戻り、
クチュクチュしながら
エンペラのコリコリにうっとり。

「白イカっていうんだけどねぇ。
 そんなに旨いかねぇ。
 俺ぁ、しばらく食ってねぇなぁ」

鮮魚屋さんの親父さんがボソッとつぶやく。
そんなもんだろうなぁ。
もう、すっかり食べ飽きてるんだよ、きっと。

「だいたい、魚っていうのは
 買って食べるもんじゃないからねぇ」

そりゃそうだよ魚屋さんだものと思ったら、
「いや、この辺の家はみんな、
 魚はもらうか自分で釣るか、だよ」

じゃぁ、こんな旨いイカ、
魚は誰に売るのかと思えば、
「島外の人に、もっと売りたいんだよ」

そうかぁ、そういうことだったのかと納得。
納得しつつ、半透明の白イカを箸でごそっとすくい、
口いっぱいにほうばった。

こんな旨い甘い白イカを、今度は自分で釣れるのだ。
いやぁ、これはありがたいことになったもんだ。

その夜は民宿に一泊。
夕ご飯に出てきたのは黒ダイなどの舟盛り、サザエ、
アワビ、イカのワタ煮。

イカのワタ煮、旨かったなぁ。
しみじみ、大人になってよかったと思う。
こんな旨いの、子供じゃわかりませんよ。

隠岐の島の夕飯は、黒ダイやアワビが舞い踊る
旨い甘い竜宮城定食なのでございました。

「小石さんは一人部屋をどうぞ」

今回の『イカ釣りツアー』の他の皆さんは
二人同室なのに、私だけ一人部屋。
気を遣ってもらってありがたいなぁ、
いいのかなぁと感謝しつつ就寝。

しばらくすると隣の部屋から話し声、
「イカって釣れるかどうか、難しいみたいよ」

「そうですよねぇ、1パイでも釣れたら
 その場でさばいてもらって食べてお終い、
 そんな感じなんですかねぇ」

「釣れないと、『坊主』っていうじゃない?
 あれって、なぜなんだろうね」

そんな話が筒抜けに聞こえてくるから、
どうにも気になって目がさえる。

反対側の部屋からは、
友人のいびきが轟々と聞こえてくる。
それも隣に寝ているような大音量。

竜宮城のお宿は、一人部屋も二人部屋も
まるで違わないねぇと苦笑いしつつ、
布団に潜り込んだ。

                   (つづく)

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2016-09-25-SUN
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