magic
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『バカも歩けば』


炭水化物ダイエットを始めたら、多くの知人に、
「炭水化物は脳の栄養です。
 それを摂らないと
 脳がしっかり働かなくなりますよ。
 簡単に言えば、バカになっちゃいますよ」
などと忠告された。

確かに、ほんの2、3日、
ごはんとかパンを食べなくしたら、
お腹はへっこんだが、
なんだかぼんやりしてしまったような気がする。

「小石さんはいつもぼんやりしてますよ」
なんて言われそうだが、
いつもより余計にぼんやりしてしまったのだ。

それで、炭水化物を
いつもの半分だけ食べるダイエットにした。
バカになるにしても、いつもの半分バカならば
生活にそれほど支障はないだろう。

我が師匠は自慢の催眠術を披露する際、
どうしてもかからなそうな観客に向けて、
「バカはかかりません!」
そう断言していた。

それを聞いた観客は、
バカと思われちゃ大変とばかりに、
催眠にかかりまくっていた。

師匠に訊いたことがある。
「本当にバカは催眠術にかからないんですか?」

師匠のたまわく、
「バカだねぇ君は。
 人間は誰でも自尊心というものがあるんだよ。

 だから、バカだと思われたくないから
 催眠術にも積極的にかかろうとする。

 たとえかかったふりだとしても、
 それも私の心理誘導術、催眠術なんだよ」

ステージ上で、僕は師匠の催眠術に
真っ先にかかっていた。

「あなたはだんだん眠くなります、
 3、2、1、はいっ!」

弟子である僕は、
師匠の言葉を一言一句聞き逃すまいと集中するあまり、
どんどん眠くなってしまうのだ。

お客さんの後ろに立ち、
催眠術にかかって倒れる背中を支える役目だったのに、
僕の方が先に倒れそうになり、
慌ててお客さんが僕の背中を支えてくれたりした。

ステージを終えると、
「小石くん、君は本物だよ、本物のバカ」
師匠は呆れかえるやら苦笑するやら。

そんなことを思い出しつつ、本屋さんに行った。
自慢ではないが、バカなマジシャンでも
多くのハウツー本を出している。
中身のほとんどは相方が書いたので、内容は確かである。

そんな我らのハウツー本をチェックしようと訪れたのに、
店頭に平積みされているのは
メンタリストと称する若い男性の本ばかりではないか。

我がハウツー本は店の奥の棚の
『金魚の飼い方』の隣にひっそりと佇むばかり。

仕方なくメンタリストの本を立ち読みすれば、
なんだか難しいことが書いてある。
こんな本を何冊も出すとは、
どうやらメンタリストは相当に頭の回転が早そうだ。

しかし、僕だって頭の回転なら決して負けはしない。
ただし、僕の場合、回るのは頭の外側だけなのだが。

ツイートするFacebookでシェアする

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2016-09-11-SUN
BACK
戻る