MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『5月病でしょうか?』

私は1977年の1月、ついにプロ・マジシャンとして
デビューを果たした。

初めの1月こそは仕事があったが、
2月以降は早くもじり貧であった。

4月を過ぎた頃、
私はついに画期的な演出を思いついた。

私がツルピカ頭のカツラをかぶり、
相方は白髪ロングヘアーという出で立ちで
老人に成りすまし、ヨロヨロと動き、失敗
続きのマジックを演じるという趣向である。

「おっほん、我々はナポ、ナポ、
 はて、なんだったっけなぁ」
相方 「情けないねぇ、
 チーム名は忘れちゃいけませんよ。
 ナポリタンズだよ、ナポリタンズ」
「ナポリタン?
 そんな旨そうな名前じゃったかのう?」
相方 「あぁ、間違えた。
 ナポリタンズじゃなくって、
 カメレオンズ」
「まぁ食いもんでも爬虫類でも、
 どっちでもええわい。
 そんなことより、早くハトを出さんかい」
相方 「出さんかいって、
 まず、あんたがハンカチを出さないと。
 そこからハトが出るんだから」
「しまった、ハンカチを忘れとる。
 どうしよう・・・」
相方 「大丈夫じゃ、
 わしもハトを忘れとる、はははは」

てな具合で進行するのだった。

当時、日本は今ほど高齢化してはいなかった。
我ながら先見の明というか予言予知能力というか、
見事に時代を先取りした演出ではないか。

それに、実のところ、
あれこれとマジックを失敗しても
失敗に見えず、とても好都合な演出であったのだ。

相方 「そこのお客さん、
 どれでも1枚、
 トランプを引いてださい。
 そのトランプをしっかり覚えてください」
「そうそう、
 よぉく覚えてくださいね。
 なんせ、私も相方も
 最近は覚えていられないんだから。
 お客さんだけが頼りなんですからね」
相方 「貴方の選んだトランプは‥‥、
 忘れた」

デビュー当時は若造で、
マジックも失敗続きだった。
アマチュアっぽさが消えず、
どうにも貫禄不足だった。

それで、超ベテランのマジシャンに扮装し、
最初から最後までボケ倒せば、
面白くて売れるに違いないと計算したのだった。

しかし、老人マジシャンもまったく売れなかった。

当時のマネージャーに諭されたものだ。
「ねぇ、普通にマジックをやればぁ?
 それなら普通に仕事は入るんじゃないのぉ?」

5月になると『5月病』という言葉を思い出す。
意味合いはまったく違うのだろうけれど、私は、
「あの頃、俺たちは5月病だったのだろうか?」
澄んだ青空を眺めながら、思う。

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2016-05-01-SUN
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