MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『街の幸せ、町の幸せ』

都会育ちの友人が訊いてくる。

「お前の田舎って、岐阜だよな。
 まずは新幹線で名古屋、だいたい2時間、
 そこから在来線で20分くらいで岐阜駅だよな。
 そうすると、お前の実家までは
 東京から3時間以内で行けるとこ?」

「岐阜駅までは3時間以内だけど、
 そこからは在来線もないし、
 バスは本数が少ないから、
 車で迎えに来てもらって、実家まで40分、かなぁ」

「遠いねぇ、田舎だねぇ」

ほっといてもらいたい。
確かに遠いし田舎ではあるけれど、
小さな幸せがいっぱいある、良い町なのだ。

私は自慢げに、
「こないだ、犬と一緒にあぜ道を散歩している女の人を
 見たんだよ。
 可愛いトイプードルが2匹、
 道端の草にじゃれるように走り回って、
 そりゃもう、幸せそうなんだよ」
 
友人は想像を巡らせて、
「へぇぇ、でもさぁ、田舎のあぜ道に
 トイプードルは似合わなくない?」

ほっといてもらいたい。
高級犬だって雑種犬だって、肉球は一緒であろう。
都会のアスファルトより、田舎のあぜ道の方が
肉球には優しいに決まっているのだ。

「夜なんか、どうしてるんだい?
 田舎には、気の利いたBarなんて、ないだろ?」

ほっといてもらいたい。
確かに、我が故郷の町には
大人が静かな夜の時間をゆっくりと味わうBarはない。

しかし、我が町には
豪華モーニングサービスが付いてくる喫茶店が
たくさんあるのだ。
コーヒーにトースト、サラダ、ゆで卵、
時にはカレーまで付いてくる、
栄養もボリュームも満点の喫茶店の方が
健康的で幸せではないか。

「デパートはないんだろ?
 老舗デパートで、
 しばし行列して食べる高級チョコレート。
 あぁ、あの高揚感、幸福感」

ちょっと待て、我が町にはあけびがある。
近くの山に入れば、あけびは簡単に見つかるのだ。
あけびの実は、不思議なことに甘いヨーグルトの味がする。

高級チョコのような深い味わいこそないが、
天然の素朴な味わいと舌触りは一生忘れられないだろう。
それに、あけびの前の行列なんて見たことないし。

二人の論争を聞いていたもう一人の友人がポツリ。
「あんたたち、本当にシアワセなおじさんだねぇ」

はい、ごもっとも。

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2016-03-13-SUN
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