MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『冬の夜間飛行』

なんだか急に寒くなってきたなぁと思っていたら、
もっともっと寒そうな山形県の仕事が入った。
新幹線で移動かと思いきや、
羽田から庄内空港に飛ぶらしい。

羽田空港に午後7時20分に集合なので、
私は午後6時半に羽田に着き、
空港内の寿司屋さんに直行した。

私はこの寿司屋さんが好きなのだ。
今の季節だと生シラスの軍艦巻きが美味しいし、
ネタの長さが鮨飯の3倍もある中トロが絶品。

まずは生ビールをグビグビ、生シラスの軍艦巻きを注文。
山盛りの生シラスを1匹だってこぼさぬよう、
大口を開けて舌の上に乗せる。

生シラスがねっとり、鮨飯と海苔の香りが混じり合い、
喉をにぎやかに過ぎてゆく、むふふふ。

中トロに煮切り醤油が塗られていて、
長さが20cmもあるネタを
鮨飯に巻き込むようにして食べる。
あぁ、たまりません。

小肌も美味しい。
シメサバも旨い。
穴子もうまうま。

「まだ旅は始まってないのに、
 もう旅先に着いたみたいだねぇ」
なんて言われそうだが、不思議なもので
羽田に着いた瞬間から、旅は始まるような気がする。

シラス軍艦と中トロをお代わりし大満足、
ご馳走さまと店を出て集合場所へ。

飛行機は夜、定時の午後8時55分に飛び立った。
ところが、庄内空港に近づいたとたん、

「ただ今、雪が降っておりまして、
 滑走路の除雪作業を依頼しております。
 したがって、しばらく上空を旋回しつつ
 待つことにいたします」
というアナウンスが聞こえてきた。

私は飛行機が未だに苦手である。
時々ガクンと揺れたりして、その度に手に汗がにじむ。
「揺れましても、飛行の安全には問題ありません」
というアナウンスもあるのだが、
「なんだ、それなら安心だ」
という心境になるはずもない。

仕方なく、ある大物演歌歌手が国際線に乗って、
「やっぱり、ファースト・クラスは揺れないなぁ。
 さすがに、料金が高いだけある」
と言ったという逸話を思い出しつつ、
緊張を和らげようと試みる。

窓の外を覗いてみると、遠くに小さな明かりが見える。
まだかなり高いところを旋回しているのだろうか。

再びアナウンス。
「事情により、羽田空港へ引き返す場合もありますが、
 当機は充分に燃料を積んでおりますので、
 どうかご安心ください」

「おいおい、ここまで来て羽田に引き返すんじゃぁ、
 本当に夜の遊覧飛行になっちゃうよ」
心の中でツッコミを入れたとたん、
飛行機はゆっくりと降下を始めた。

窓越しに灰色の雪雲、黒い空、白い大地が見える。
遠くに、街の明かりが寒さに震えるように瞬いている。
私はすっかり怖さを忘れ、
冬の夜間飛行も悪くないなぁと思った。

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2016-01-31-SUN
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