MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『神様、お願いがあります』

友人のS君から電話があった。
「小石さん、出雲大社って行ったことありますか?
 良かったら僕と一緒に行ってみませんか」

以前、仕事で近くまで行ったことはあるが、
周辺を車で走っただけだった。
私はいい機会だと思い、
連れて行ってもらうことにした。

出雲大社の近くの駐車場に車を停め、
参道に並ぶ店々を眺めつつ、しばらく歩いた。

出雲大社は縁結びの神様として有名だ。
やはり良縁を求めて訪ねてきたのだろう、
若い男女が3、4人のグループになって歩いている。

不思議なもので、誰もが縁薄く幸薄そうに見えてしまう。
特に若い男性だけのグループを見ていると、
やたら寂しい面々に思えてしまうではないか。

いかんいかん、私もS君と歩いている。
側から見ると、薄幸で侘しい、
今まで一度だってモテたことのない男に見えているに
違いない。

私は慌てて提案をした。
「俺たちも不幸で寂しい男に見られてるかもしれないよ。
 それじゃ悔しいから、笑顔でモテモテ、ハッピーですよ、
 みたいな顔でいようよ」

ふたりでニコニコ、満面の笑みで歩いた。
それゆえ、薄幸なおじさんには見えなかったはずだ。
ただ、相当に不気味な男に見えたかもしれないが。

玉砂利の道を歩き続け、やっと大鳥居をくぐった。
更に歩き続けても、なかなか大注連縄のお社に
たどり着けない。
しばらく歩き続け、やっと神殿の前の広場に着いた。

不思議なことに、大勢の人々が
幸福そうな微笑を浮かべているのだった。
なんだか、大きな存在に守られているような、
心穏やかな表情の人ばかりなのだ。

なんとも言えない平穏、日々の暮らしのなかで感じる
様々な不安を完全に忘れさせてくれる、
安らかな空気で満たされているのだった。

普段なら、お賽銭を投げ入れて商売繁盛、健康長寿など、
あれこれ欲深く神様にお願いをする私である。
しかし、ここでは何もお願いをしなかった。
なぜか、お願いすべきことが
咄嗟に思い浮かばなかったのだ。

ただ、神様に、
「初めて参りました。
 どうぞよろしくお願いいたします」
そう、ご挨拶したのだった。

出雲大社を出てから、
「どうか良いマジシャン、芸人になれますように」
と祈願するのを忘れたことに気づいた。

今の私がダメ芸人、ダメマジシャンなのはそのせいである。
再び出雲大社に参拝し、祈願できれば、立派なマジシャン、
芸人になれるに違いない。
どうか皆様、その時までしばし、辛抱強くお待ちください。

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2015-11-29-SUN
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