MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『名人への近道』

すっかり秋めいた空を眺めつつ、思う。

「私のマジシャン、芸人としての
 完成形に到達するには、
 まだまだ時間がかかるのかなぁ」

マジシャン、芸人には定年というものがない。
ありがたいことと思うのだが、反面、
いつ辞めていいのかが分からない。

いいなぁと夢見ているのは、

「やっほ〜、
 これがおいらの完成形でございますよ。
 やっとできましたので、これで引退しま〜す」

と笑顔で宣言できること。

しかし、涼しいを通り越して
冷たい風に震えつつ、

「待てよ、自分で思う完成形というのは、
 かなり盛り過ぎの完成形ではないのか?」

なぜなら、幸運にも
数多の名人上手の師匠たちの芸を
間近でたっぷりと拝見でき、
時にはプライベートな芸談義まで
披露していただいてきた。

我が師、初代・引田天功も
その生き方でマジシャンそのものの完成形を
見せてくれた。

そんな師匠たちの
偉大な完成形を近くで見てきたので、
自分の完成形も知らず知らずに
大きく見積もってきたのではないだろうか。

風にさらされ、背中を丸めて思う。

「やれやれ、師匠たちのような完成形には
 いつまで経っても届くはずないよ」

もうひとりの自分は、

「いやいや、
 お前の完成形は以前にあったんだよ。
 それも小さな小さな完成形が。
 で、その後は
 その完成形を取り崩してるだけだよ」

あれこれ弱気になっていると、先輩芸人が、
「大丈夫だよ、いざとなれば
 名古屋に引っ越せばいいのさ。
 そうすりゃぁ名古屋の芸人、略して名人、
 がっはっは」

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2015-10-25-SUN
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