MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『漂う日々』

セレモニー・ホールで
マジック・ショーをすることになった。
実に珍しいというか、
ひょっとすると初めての経験だったかもしれない。

新幹線の駅を降り、タクシーで1時間ほど走り、
郊外の大きな建物に到着。
前方の広い庭に子供たちを乗せる機関車が設置され、
大きなバルーンも見える。
中で子供たちが飛び跳ねている。

黒いネクタイではないが、
紺のネクタイを締めた男性が場内に案内してくれた。

「ここは、あの、普段は祭壇でございますが、
 今日はカーテンで前を塞いでおります」

前に椅子が300席ほど並べられている。

「地元の会員の皆様方が楽しみにしておられますので、
 どうぞよろしくお願いいたします」

「それでは、ナポレオンズの
 マジック・ショーでございます」

司会担当の方の紹介が始まった。

「親戚の方からご順にお楽しみください」

と続くのかと思ったが、さすがにそれはなかった。

最後のマジックは、私が長テーブルに横たわり、
布を掛けられると浮いてしまう浮遊術だった。

なんだか、セレモニー・ホールの特設会場に
ふさわしいマジックではないか。

「私は、この長テーブルに横たわります。
 布を掛けられると、
 私の肉体は魂とともに天に向かって浮き出します。
 ご覧いただきましょう、『昇天イリュージョン』」

席の最後方で見ている社長さんの反応が心配されたが、
社長さんは大爆笑されていて、ホッとした。

翌日の仕事は老人ホームであった。
老人ホームといっても、
ずいぶんと元気なお年寄りが席を埋めていた。

普通の仕事の場合、

「昨日は◯◯で仕事しまして。
 一昨日は□□でね、なんだかやりにくかったですが、
 今日は良いお客さんで良かった」

などと最初に話すのだが、今回はさすがに、

「昨日はセレモニー・ホールでした。
 すごく良いセレモニー・ホールで、オススメですよ」

とも言えず、困った。

翌々日は演芸場での仕事だった。
ひょんなことから海を泳ぎまわって
ヘロヘロになった淡水魚が、
いつもの川に戻ってスイスイ泳いだような、
そんな気分になった。

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2015-10-11-SUN
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