MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『私はPAルトこいしですよ』

レストランを予約する時などに、名前を聞かれる。
「えぇっと、小石と申します」

すると、
「はい、小西さんですね?」

「いいえ、違います。
 こ・い・し、小石です。
 小さい石で、小石です」

てな感じで、面倒極まりない。
山田さん、佐藤さん、渡辺さんとかには
ありえない悩みに違いない。

面倒だからと、名前を聞かれて、
「はい、田中です」
などと言ってしまうと、レストランで待っていて、
「ご予約の田中さま、
 いらっしゃいますでしょうか?」
と呼ばれていても、自分だと気づかなかったりする有様。

だから、毎回のように、
「小西じゃありません、
 小さい石、小石です」
と何度も説明しなければならない。

まったく、名前、苗字でこんなに苦労するとは
思わなかったなぁと嘆いていると、
『バルト小西 さま
 今回の原稿のチェックをお願いします』
というメールが届いた。

やれやれ、いきなり名前から間違っているではないか。
私の芸名は、パルト小石である。
英語表記だとPARTE KOISHI 。
バルト小西ではありません。

かのフランスの皇帝、
ナポレオンの苗字であるボナパルトのパルトに、
私の苗字の小石をつけて、パルト小石なのだ。
しかし、残念ながらナポレオンの苗字が
ボナパルトであることを知る人は本当に少ない。

ゆえに簡単にパルトはバルトに、
ひどい時にはバトル小石などと間違われてしまう。
私はどこともバトルしない、平和主義者なのに。

私の苗字である小石の石という漢字は、
ほこらを意味するらしい。
山の斜面や崖に祀られた小さなほこらを守る人、
小石とはそういう意味を持つ苗字だと聞いた。

確かに、私の父は近所の小さなほこらを
定期的にきれいにしている。

草をむしったり、ほうきで掃いたりしているのを見て、
「親父、なんでそんなことをしてるんだい?
 もう90歳を超えたんだから、
 誰かに代わってもらえばいいじゃん」

と言うと、
「この仕事は、ずぅっと家でやってきたでなぁ。
 本当は、ずっと前にお前に
 やってもらう仕事じゃったが、
 お前は東京に行ったきりでなぁ」
とんだやぶ蛇なのであった。

とにかく、パルトという芸名、
小石という苗字も間違われやすい。

間違われない芸名はないものかと、
あれこれ考えてみた。

『PAルトこいし』、これはどうだろう。
『PAルト恋C』、これも間違いにくいが、
恋Cというのがおじさんにはちょいと恥ずかしい。

父が言うには、
「昔はなぁ、小石という苗字を説明するのに、
 フランク永井の『君恋し』の、こいし。
 それか、有名な漫才の『夢路いとし・喜味こいし』の、
 こいし、と説明すりゃぁ良かったんじゃが」

いくらなんでも古過ぎるだろう、親父。

チーム名も加えて、
『PAルトこいしナポレオンズ』というのはどうだろう。
『こいし』がミドル・ネームみたいでいいかもしれない。

ついでにマジックも入れて、
『マジックPAルトこいしナポレオンズ』というのは‥‥。
などと、はてしなく芸名は
『じゅげむ』化していくのであった。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2015-07-19-SUN
BACK
戻る