MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『よみがえれ、我が健全なる身体』

私は健全な肉体に、
はなはだ不謹慎な精神を宿している
マジシャンである。
精神はともかく、
肉体は健全そのものを維持してきた。

そりゃぁ、五十肩で痛いとか腰痛だとか虫歯だとか、
あるいは酔っ払って転んで歯を折りましたとか、
あれこれの不健全状態が現れては消え、
消えては現れのの日々ではあるが、
まぁ相対的には健全なのであった。

ただ、そんな私も、手術の経験は皆無ではない。
実は、中学1年生の時に盲腸の手術を受けている。

中学校に登校したものの、
勉学の意欲が一向に現れず、
保健室の先生に、
「先生、お腹が痛いんです」
と嘘をついて勉強をサボる作戦に出た。

先生は私のお腹を押さえ、
「ここ、痛い? ここは?」
などと聞くもんだから、つい、
「はい、そこが痛いです」
なんて応えてしまった。

先生は深刻そうな表情になり、
「ねぇ、ちょっと心配だから、
 大学病院で診てもらいましょう」
今更、
「いえいえ、それには及びませんよ。
 なんせ、仮病なんすから」
なんて白状するわけにもいかない。

仕方なく、大学病院で診てもらい、
「いくら診てもらったって、仮病なんだから」
などと思っていると、病院の先生は、
「はい、盲腸ですね。
 すぐに入院、明日、手術します」

大学病院の先生が診断したのだから、
私の盲腸はきっと悪かったのだろうと思いたい。
それにしても、保健室の先生、
ならびに大学病院の皆々様、
ご迷惑をおかけしました。

盲腸の手術はもう昔々のお話で、
以降は健全な肉体を保ってきた。

ところが最近、そんな我が肉体に
意外な病魔がヒタヒタと忍び寄ってきたではないか。

どうも変だなぁ、不調だなぁと感じてはいても、
少しずつ少しずつ進行していて、
重篤な症状になるまでなかなか気づけないでいた。

だがある日、私は意を決して
病院で診察を受けることにした。
あれこれ事前検査を受け、院長先生との面談となり、
「小石さん、こりゃかなりの重症ですねぇ。
 紹介状を書きますから、
 すぐに専門医の診察を受けてください」

紹介状を書いてもらい、指定された病院に電話をし、
診察の予約を取った。

以下は、それ以降の私の
健全なる肉体を取りもどすまでの日々の記録である。

5月なのに夏のように暑い日の昼下がり。
専門医の診察を受ける。
「うん、こりゃぁ間違いないですね。
 なるべく早くに手術となります」

びっくりだ。
数ヶ月前に簡単な検査をしてもらったお医者さんは、
「そうですねぇ、あと5、6年後には
 ちょっと考えないといけないでしょうねぇ」
くらいの診断だったのに。

診察後、他のスタッフの方から説明を受ける。
「手術のスケジュールですが、
 だいたい7月の末、あるいは8月の始めを
 予定していましたが、
 かなり進行しているという診断で、
 7月の始めを予定しております。
 で、明日も来ていただいて、
 より詳しい検査を受けていただきます」

文句などあるはずもない。
手術に際しての丁寧な説明を聞き、この日は帰宅。

          (つづく)

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2015-06-14-SUN
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