MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『されど肩書き』

私の職業はマジシャンである。
したがって、肩書きも『マジシャン』なのだ。

しかし、『マジシャン』という職業には
様々なジャンルがあり、
マジックのタネ、仕掛けを考案する『クリエイター』、
マジックの歴史や著名マジシャン等を研究する
『マジック研究家』、
マジックを実演、販売する
『デモンストレーター』などがある。
肩書きもマジシャンそれぞれに使い分けている。

私は、ただ単に、
「はい、マジシャンやってます、へへへ」
てなもんで、まるで肩書きにこだわってはいない。

ただ、この『マジシャン』という肩書きは、
実に信用が薄い。
昔々の寄席では、
「お次は手品師の登場でございます。
 どうぞ皆さま、懐中物にご注意を願います」

「どうぞポケットのなかの財布にご注意ください」
なんて、まるでスリと同様の扱いをされていたのだ。

今でも『マジシャン』とは
『人をダマしてお金を儲けている人』と
茶化されることが多い。
数ある芸能のなかでも、信用の薄さNo.1だ。

プロ・マジシャンになって初めての納税の際、
職業欄に何と書いていいか分からず、先輩に聞くと、
「あぁ、それなら『職業奇術師』と書くんだよ」
と教わった。

『職業奇術師』、
更に不透明感が増しているように感じられて
ならなかったので、
『プロ・マジシャン』と書くことにした。
なぜか怪しさが薄まったような気がする。

落語家さんの肩書きは昔も今も『落語家』だ。
これは、いい。
なにせ、肩書きに『家』が付いている。

アパート暮らしだろうが師匠の家に居候だろうが、
肩書きにはちゃんと『家』が付いている!
有名かつ名人となれば、肩書きは『大家』となり、
大きな家持ちとなれるのだ。

あぁ、うらやましい。
私も今後は『奇術家』と名乗ることにしようか。

『実業家』という肩書きも、時にうらやましく思う。
だが、私には『実業家』という肩書きの中身が
分からない。
「実業家の◯◯氏が、
 新たなプロジェクトを立ち上げ‥‥」
などというニュースを聞いても、
『実業』がどういう職業なのか、ピンとこない。

『エッセイスト』と名乗りたいとも思う。
とても知的な肩書きではないか。
ただ、私の場合、『エッセイスト』という一面は
確かにあるのだが、
「へぇぇ、やっぱり他のマジシャンの悪口なんか
 書いてたりしてるんじゃないの。
 サイテーだねぇ」
と、やはり信用は薄いままだ。

『小説家』とも名乗りたい。
ちゃんと大手出版社から小説を出版しているが、
あまりに寡作なのがちょいと恥ずかしい。

『タレント』と名乗る手もある。
しかし、『タレント』の意味が
『才能』というところが気になる。
自ら、
「私は、『才能』です」
などと名乗ってよいものなのだろうか。

外国人に、
「私の職業は『才能』です」
と言って通用するのだろうか。

しかも、最近は、
「軽薄なタレント稼業を続け‥‥」
などと揶揄されたりして、
軽薄短小のイメージが付きまとう。

う〜む、なにか信用度の高い、実体のありそうな、
意味は分からなくても、
「へぇぇ、すごい人なんだぁ」
と感じてもらえるような肩書きはないものかと
悩んでいると、
テレビ画面からアナウンスが聞こえてきた。

「資産家の◯◯氏が、
 フィリピン沖の深海で戦艦を発見し‥‥」

『資産家』、なんという美しい肩書きであろう。
『国会議員』、『医師』、『教授』等々、
有り難そうな肩書きがあるが、
『資産家』という絶対的、圧倒的かつ美しい響きを持つ
肩書きがあるだろうか。

私も『資産家』という肩書きを持ちたい。
だが、今現在所有している資産といえば
『あったま・ぐるぐる』という
珍しいマジック道具だけである。

明日からせっせと節約し、
貯金に励んで『資産家』への道を目指すとするか。
節約して資産をこしらえた、
あるいは貯金して『資産家』になった人など
いないだろうなぁとは思いつつ。

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2015-05-31-SUN
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