MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『スピーチ・アドバイザー』

「面白くて楽しいスピーチ、プレゼンがしたいんです。
 小石さん、アドバイスしてください」

という依頼があった。

どんな要求にも、
「嫌です、無理です、できません」
とは言わない私である。
二つ返事でお応えすることにした。

あれこれ聞いてみると、
「まずねぇ、アガっちゃうのですよ。
 それで、頭が真っ白になってね、話が飛んじゃうの」
とまぁ、かなり問題山積のご様子。

私の職業はマジシャンであるが、よく動かすのは
指先ではなく口先である。
口先を軽快に動かすには、やはりコツというか、
ノウハウがあるのだ。

「アガっちゃって、頭が真っ白になって‥‥」
そうですよね、困りますよね。
私も、ステージに登場してすぐ、
「はいっ、では最後のマジックです!」
最初のマジックなのに、アガって言い間違えたり。

テレビ番組の収録で、
「これからご覧いただくのは、超能力かマジックか、
 どちらでしょう?
 それを決めるのは貴方です。
 さぁ、最初のマジックはこちら‥‥」
などと、うっかり自爆コメントをしてしまったり。

でもねぇ、あの立川談志師匠いわく、
「アガるってぇことは、先のことを考えてるから、
 アガるんだよ。
 バカはアガんないよ。
 だって、先のことも今のことも後のことも、
 何も考えないんだから。
 だから、アガるってぇのは頭の良い証拠だよ」

まずは自分を知る、
その上で自己を肯定するということだろうか。
アガっても構わない、むしろ頭の良い証拠なんだから、
気にしない、気にしない。

「出番が来たら、ゆっくりゆっくり登壇しましょう」
これは、ある天才マジシャンからもらった
アドバイスだ。

出番を待つ間、落ち着かないので
セカセカと動き回ったりしていた。
司会者の紹介コメントを聞くやいなや、
飛び出すように出て行った。

これがいけないらしい。
天才マジシャンによれば、
「だってね、小石さん、せっかちに動いてしまうと、
 アドレナリンが過剰に出すぎるのですよ。
 そうすると、マジシャンだけが興奮状態で、
 観客はまだ冷めているという、
 哀しいステージに‥‥」

このありがたいアドバイスを受け売りして、
「私の長年のキャリアで培った
 素晴らしく貴重な理論を、
 特別に貴方だけにお伝えしましょう」

もったいつけて、人から教わったことを
自分の理論のように語って
アドバイスに励んだのであった。

プレゼン終了後、メールが来た。
「少し緊張しましたが、きちんと読めました。
 スピーチ原稿がシンプルになって
 つっかえずにすいすい読めました。

 次回は身振り手振りも加えて、
 もっと個性が出せて
 面白く楽しいプレゼンがしたいです」

めでたし、めでたし。
次回は、師匠たちから教わった小話でも
教えちゃおうかな。

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2015-05-10-SUN
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