MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『マジシャンの日常ぶつぶつ』

以前は、駅の近くで
外国人から道を聞かれることが度々あった。
ちょっと恥ずかしいけれど、
つたない英語で道案内をする。

それが、最近はめったに道を聞かれなくなった。
最近の外国人たちは、手にしたスマホの画面を見ながら、
目的地へ迷いなくたどり着けるのだ。

昨年イギリスに行った時、レンタ・カーを借りた。
その車を返しに行こうと車を走らせたのだが、
途中で迷ってしまった。

そこで、スマホのナビを使ってみた。
なんと、日本語で、
「およそ450メートル先を、左です。
 その先、200メートルを右、です」
指示通りに進むと、
ちゃんとショップにたどり着けたのだった。

道を聞かれることがなくなって、
なんだか寂しいなぁと思っていると、
お婆さんから声をかけられた。

「この辺りだと思うんだけど、
 ◯◯会場に行きたいのですがねぇ」

僕は丁寧に道案内をした。

僕の『お・も・て・な・し』の気持ちは、
しばらく国内向け、高齢者向けになりそうだ。

ある若手マジシャンが、
SNSのメッセージで苦情を受け取ったと聞いた。

「あなたのマジックは、
 自分の上手さに酔っているようで不快だ」

というような内容だったらしい。

すごい時代になったものだ。
僕も昔々、アンケート用紙に、

「マジックなんだから、
 もうちょっと不思議なのをやりなさい」

などと書かれたものだ。

僕は楽天家で、そんな苦情にも、

「仕方ない、それもこれもご意見のひとつだし。
 でも、参考にするかどうかは、わっかりませ〜ん」

てなもんだった。

はて、かの若手マジシャンは
どう受け止めているのだろう。
今も少々、気になっている。

近所の自然食品を扱う店に出かけた。
レジで、

「メンバーズ・カードをお作りしますか?」

と聞かれる。

実は、カードはもう作ってもらっていて、
それを持ってくるのを忘れたのだ。

「では、レシートにハンコを押しときますので、
 次回にお持ちくださいね」

だけど、そのレシートを持ってくるのも
忘れるのですよ。

帰り道、
「あぁ、なんて俺はバカなんだろう」
そう、自分を責める。

こいつは相当に、心に悪い。
「ポイント・カードくらいで自分を責めるなんて、
 やっぱり俺は小心者」
ぶつぶつとぼやき続ける。

で、今はポイント・カードは持たないことにしている。
「持っていません、ごめんね、あっはっは」
僕はうっかり者なんだから仕方ない、それを自覚しつつ、
今後はこざっぱりと生きるとしよう。

名古屋で演芸会があった。
まず前座さんが出て、漫才やコント、マジックと続く。
最後は師匠がトリを務める。

漫才師がぼやく。

「いいよなぁ、師匠は出番が遅いから。
 今日だって遅い新幹線でゆっくり来れば
 間に合うもんね。
 俺たちは早起きして、早い新幹線で来たんですよ」

すると師匠すかさず、

「そのかわり、お前さんたちは早く帰れるじゃねぇか。
 あたしがいちばん遅く帰るんだから」

ごもっとも。

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2015-02-15-SUN
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