MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『ほとんどバラ色だよ』

おいらの人生、ほとんどバラ色だよ。
そりゃまぁ、二日酔いの朝なんてのは
バラ色どころか灰色だけどさ。

でも、前の晩にそれだけたくさんお酒を
美味しく呑めたわけだから、
まぁまぁ身体は健康っていうことだし。
精神は若干病んでるかもしれないけれど。

おいらの人生、ほとんどバラ色だよ。
仕事に行って、なんだかウケなかったりする日もある。
それを除けば、という話なんだけれど。

それが、反省するほどの失敗ということではないんだよ。
反省しておしまいにしたいのに、
何をどう反省していいか分からない。

だから、いつまでももやもや、くよくよ。
でもね、ある師匠が言ってた。
「芸はいつまでたっても完成するもんじゃない。
 今の自分にできることをやって、次に継ぐもんだよ」

バトンを手にしている限りは、
しっかり走れっていうことなんだろうね。

でも、このバトンは、
本当に持ちたくて持ったものなのかなぁと、時々思う。
すると、ある俳優さんがテレビで言っていた。

「俳優になりたくて、なったわけじゃないんです。
 でも、だからかなぁ、芝居を客観的に
 見ることができるような気がします。
 芝居そのものじゃなく、
 その周りの空気を感じられるっていうか」

師匠は、なぜかおいらにもバトンを渡してくれた。
おいらは、強く望みはしなかったのに。
でも、だから、バトンの価値を
客観的に見つめられたのかも。
師匠のおかげで、おいらの人生ほとんどバラ色なんだよ。

今日、ファンの人にサインをねだられたよ。
ありがたいことに、熱烈なファンだったよ。
ただ、そのファンが変なおじさんだった。
だいたい、そういうファンばかりなんだよな。

どうして可愛くて美しい女性のファンがいないんだろう?
時にそう思うけれど、ファンはファンなんだから、
ありがたいと思うよ。
ファンの皆さんのおかげで、おいらの人生、
ほとんどバラ色でございますよ。

スランプになると、あの師匠と一緒の高座に
上がりたいなぁと思う。
それほど深刻ではないけれど、
どうにも不完全燃焼の日が続いている。

で、こういう時は、あの師匠と一緒に
高座を務めたいと願う。
なぜなら、あの師匠は他の芸人さんたちの潜在能力をも
高めてくれる、すごい師匠なのだ。

あの師匠は、おいらをグイッと
引っ張り上げてくれるようだった。
そりゃもう丸ごと、もうひとつ上の世界に
持ち上げてくれた、そう強く感じたんだよ。

師匠と弟子というのも、
そういう関係なんだなぁと思ったよ。
何かを特別に教えてくれるわけじゃない、
テクニックを伝授してくれるわけでもない。

ただ、弟子を丸ごと、
エイヤッと引っ張り上げてくれるんだよ。
まさにチカラ技なんだと思う。

以前は、
「あの師匠はすごいけれど、
 弟子たちはつまらなかったりする。
 もうちょっと、才能のある弟子を採ればいいのに」
なんて思ってた。

でも、今は分かった気がする。
弟子は空っぽでもいいのかもしれない。
空っぽの弟子の中に、
師匠がたくさんのものを詰め込んでくれる。

弟子が消化不良でも、
かまわずグイグイ詰め込んでくれる。
いつの間にか、弟子たちはたくましくなっている。
きっと、師匠と弟子とは、そういうものなのだ。

おいらだって、飲み込みの悪い弟子だった。
「おいらの師匠は、何も教えてくれないなぁ」
そんな風に思っていた。

でも、今にして思う。
ずいぶんと、おいらの師匠も
あれこれ詰め込んでくれたものだ。
中には消化しきれないもの、
消化しちゃいけないものもあったけれど。

今、おいらはおいらの師匠、
これまでご縁をいただいた多くの
師匠たちがくれたものを小出しにして
フワフワ、フラフラと生きているだけなのかもしれない。
それでも、おいらの人生、
たくさんの師匠たちのおかげで
ほとんどバラ色でございます。

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2015-01-25-SUN
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