MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

皆々様
今年もあとわずかとなりましたね。
長かったような、
短かったような2014年を惜しみつつ
お届けする、おいらの納めの記であります。

『2014・バカ納めの記』

歯が痛いよ。
ずぅっと痛いわけじゃないけれど、
ご飯食べたりしたあとなんかに、
じんわりと痛いよ。

前歯が折れたんだよね。
もう1本は、欠けてしまったんだよね。
で、折れた方が、ちょっとでも動くと痛いのですよ。

右の顎の先を、床に打ちつけてしまったんだよ。
その衝撃で、きっと下の歯と上の前歯が
激突したんだと思うよ。

で、上の前歯が負けて欠け、折れた。

痛いよ。
歯も痛いけれど、心が痛いよ。
歯は時々疼くけれど、心はずぅっと痛いよ。
歯も折れたけれど、
どうやら心も折れてしまったみたいだよ。

歯医者さんで診てもらったよ。
「折れてるかなぁ、折れてるねぇ。
 どこらへんで折れてるかなぁ、
 半分か、全部かなぁ。
 うん、痛いでしょうね。
 今日は応急手当しといて、
 次回1時間くらい治療しましょう」

帰り道、おいらは自分を責め続けたよ。
だって、虫歯とかじゃなくて、
丈夫だった歯を折ってしまったのだからね。

すれ違う人々が、
「ほらほら、見てごらんなさい。
 自分のドジで歯を折っちゃったバカが歩いてるよ。
 本当に、バカねぇ」
そう言っているような気がするよ。

2ヶ月くらい前から、
腕立て伏せや腹筋の運動をしてますよ。
マジックのネタで、
腕力や腹筋が必要なのがあるのですよ。
筋力が落ちてそのネタがきつくなったので、
こりゃいけないと始めたのですよ。

そうしたら、ちゃんと筋力が戻ってきて、
ネタが楽々になってきたのですよ。
あぁ良かったと、
腕立て伏せも腹筋も毎日欠かさず続けたのですよ。

良かった、筋力が戻ってきたと喜びましたよ。
それが、歯を失うという悲劇の幕開けだったとはね。
健康のために運動をして、
健康になった途端にとんでもなく
不健康になってしまったのですよ。

ある日、酔っ払っていました。
たくさん飲んで、良い気分でした。

目の前に、健康器具がありました。
こいつは相当の筋力を必要としているものでしたが、
おいらは筋力にちょいと自信ができていて。
で、ためらうことなく器具運動を始めましたよ。

そうして、落ちた。
顎の先を床に強打した。
衝撃は強烈だったけれど、
酔っているのであまり痛みは感じなかった。
だが、歯は折れ、もう1本は欠けた。

ちょっと、筋力に慢心していたんだよね。
心に隙間ができていたんだよ。
慢心して油断して、
酔っ払って慎重さを失ってしまっていたんだよ。

本当に、バカは治らないね。
こんなバカな人間に生えてしまった歯が、
可哀想で可哀想で。
歯よ、本当にごめんね。
また迷惑をかけてしまうよね、すまない。

街は師走、忘年会やらパーティやらで
人々の動きが慌ただしいよ。
でも、人々の顔は明るいよ。
きっと美味しいものをバクバクと、
何の問題もなく食べられるんだよね。

おいらは自分のバカのせいで、まるで噛めないのですよ。
噛みしめるのは奥歯だからいいかと思っていたけれど、
柔らかい蕎麦だって始めは前歯で噛み切るんですよ。
パンだってパスタだって、天ぷらだって肉だって、
前歯で噛み切るんですよ。

痛むたびに、歯がおいらを責めます。
「お前のせいで、こんなに痛いんだよ。
 いったい、どうしてくれるんだ」

でも、心が折れたまんまで生きていけるわけがない。
まずは明日も、歯医者さんに行こうと思う。
ちゃんと麻酔をしてもらって、
できれば意識不明くらいにしてもらって、
このグラグラの歯とガタガタの歯を治療してもらおう。

歯医者さんに歯をしっかり治してもらって、
それから心を立て直そう。
折れた心までは歯医者さんは治療してくれないから、
自分自身で治すしかないのだ。
バカはバカなりに、心を鼓舞して歯医者さんに行こう。

「いやぁ、小石さんは、そんなにバカじゃないですよ。
 まだ、不幸中の幸いというやつですよ。
 こないだは、アイスキャンデーの早食いで
 歯が折れちゃった人もいるんですから。
 それに比べりゃぁ、まだ、ましな‥‥」

歯医者さんの診断は、
『まだ、ましなバカ』と出たようです。

「そうだよ、おいらはまだ、
 救いようのあるバカなのかもしれないよ。
 来年こそは、もっとましなバカになるべく、
 がんばろう」

そう、心に誓いました。

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2014-12-28-SUN
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