MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『サンタさんへの手紙』

サンタさん

今年もクリスマスが近づいてきましたね。
お忙しいと思いますが、
僕のところもどうかお忘れなくお越しいただきますよう、
切にお願い申しあげます。

僕がまだ子供だった頃、
たぶん母の手製の靴下を渡され、
「いいかい、これに入る大きさのものじゃないと、
 サンタさんは持ってこれないんだよ。
 だから、大きいものや重いものはダメだからね」
なんて説明されたものでした。

今にして思えば、僕が自転車とか大きなプラモデルとかを
頼まないように大人が考えたのでしょうか。
靴下は普通の大人用よりは大きいものの、
自転車は無論入らず、
プラモデルも小さな箱しか入らないサイズでした。

でも、そんなサンタさんのプレゼントも
小学3年生くらいまででした。
いつの間にか、サンタさんは
我が家には来てくれなくなったのです。

代わりに大人たちがサンタさんの代理人になりました。
プレゼントは直に代理人に伝える方式になり、
靴下も使用しなくなりました。
無駄を省いたということでしょうか。

小学5、6年生のころになると、サンタさんの代理人は
祖母になりました。
「なにぃ、今年のプレゼントは自転車かぁ。
 変速ギア?
 なんじゃぁ、それは」

仕方なく、僕は自転車屋さんでパンフレットをもらい、
祖母に見せます。
すると、祖母がサンタさんに、じゃなくて自転車屋さんに
電話をしてくれるのでした。

祖母が代理人になると、サンタさんのプレゼントは
ずいぶんと早くに届いたり、かなり遅れたりしました。
文句を言うと、
「えぇじゃろう、いつでも。
 ちゃんと届きゃぁ、ありがたいこっちゃぁ。
 いいか、ご先祖様と仏様に感謝せにゃぁ」

いつの間にやら、サンタさんは祖母の中で
宗旨替えをさせられてしまったらしいのです。
本当に申し訳ありません。

それでも、祖母が代理人となってくれたお陰で
予算は大幅にアップされました。
プレゼントはステレオや腕時計になり、
大型化、高級化したのでした。
僕はご先祖様と仏様、そしてサンタさんに
深く感謝しました。

時が過ぎて、とうとう代理人も
いなくなってしまいました。
もうサンタさんのクリスマス・プレゼントは
届かなくなったのです。

それに僕自身も、今は欲しいものを思いつきません。
もちろん、欲しい洋服があったり、
高級なレストランで食事をしたいというのはあります。
また、長い旅行を夢見たりもしています。

でも、それらはなにか、
サンタさんのプレゼントとは違うような気がします。
今にして思うのは、やはりサンタさんのプレゼントは
靴下に入るような、つまりは制限付きの、
小さいけれども精一杯の、
そんなものだと思うのです。

あぁ、サンタさん。
今頃はあれこれの準備にお忙しいのでしょうね。
でも、今年は久しぶりに我が家を訪れてほしいのです。
でも、もう手ぶらでいいのです。

今年は久しぶりに、
枕元に靴下を置いて眠ろうと思っています。
そうして朝になり、靴下を見てみようと思います。

もちろん、中は空っぽでもいいのです。
空っぽの靴下の中に、あの子供の頃の、母や父、祖父母、
姉たちの思い出が入っていればいいのです。

これまで、ありがとうございました。
ありがとう、サンタさん。
子供の頃の僕と、今の僕より。

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2014-12-21-SUN
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