MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『これだけは、言いたい』

若手の芸人さんが結婚するという。
「小石さんに披露パーティで、
 ちょこっと祝辞をお願いできますか?」

おめでたいことなので、
「喜んでと言いたいけど、
 僕なんかでいいのかなぁ」

すると、彼はもそもそと事情を話し始めた。
「実は、僕の両親は僕が芸人やってるのに反対してて、
 彼女の両親も、僕が芸人なんで
 大丈夫かと不安に思っているんです。

 それで、長くやってる先輩に、
 芸人でもそれなりに
 ちゃんとやっていけるもんだという、
 そんなところを話してもらえないかと‥‥」

確かに私は、大した芸もないのに
長く芸人をやっている。
だが、長くやってこれた秘訣も秘密も
未だ分からないままなのだ。
そんな私が、いったい何を話せばいいのだろうか。

彼はまるで独り言のように、
「なんか、小石さんに話してもらえば、
 根拠はないけど大丈夫、
 みたいな気持ちになってもらえる、みたいな」
そう、つぶやくのだった。

司会者の紹介が始まった。
「大した芸もないのに四半世紀を超えて
 芸人を続けている、レジェンド、
 小石様にご祝辞をお願いします」

私はマイクの前に立った。
「おめでとうございます。
 お二人はきっと、良きご夫妻になられると思います。
 ただ、なぜそう思うのかという、
 確かな根拠はありません。
 へへへ。

 私事ですが、私が芸人、マジシャンになるというと、
 両親は当然のように反対しました。
 同期の人間が銀行やら商社やらに就職する時代に、
 よりによってマジシャンになるというのですから、
 当然のことでしたが。

 それが、NHKの番組に出ると、豹変したのです。
 ひょっとして、NHKに就職したと
 勘違いしたんじゃないかと思うくらい、
 芸人という職業を職業として認めてくれました。
 
 その後、永遠に存続するはずの銀行、商社が
 グラグラ揺れに揺れまして。
 一方、我が芸人ライフは変わらず、
 低空ながら安定飛行を続けております。
 世の中、分からないものです。

 先日、30年も前の銀行ローンの資料が出てきました。
 当時の銀行はもうありません。
 あの担当者は、さてどこに消えてしまったか。

 学校の先輩に、
 『オレの会社の保険に入れ』
 と、無理やり入らされた生命保険会社も
 何度も名前を変え、
 先輩も早期退職でいなくなってしまいました。

 それなのに、1年か2年、持つかどうか、
 吹けば飛ぶよなマジック屋さん、
 我々ナポレオンズは名前も変わらず、
 今も私と相方、それに同じマネージャーと
 同じアシスタントで営業中であります。

 どうか皆さん、今後ともナポレオンズを
 よろしくお願いいたします。
 ご用命は、03、5◯2◯、0◯9◯、
 マネージャーが皆さんの電話をお待ちしております。
 電話は03、5◯2◯、0◯9◯、電話は03‥‥」

なんだ、結局は自分の宣伝じゃないかと嗤うなかれ、
この厚かましさこそが
長く芸人を続けられる秘訣かもしれないのだから。

宴は続き、最後にご両家代表謝辞となった。
「未熟者のふたりであります。
 どうか皆様のご指導ご鞭撻を、
 よろしくお願いします。

 芸人をやっております息子にも、
 皆様の電話を心よりお待ちしております。
 息子の携帯番号は、090、2◯4◯、2◯7◯、
 090、2◯4◯、2◯7◯‥‥」

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2014-12-14-SUN
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