MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『ぐうたらもん』

中学生になった頃だったろうか、
母は私の爪をしみじみと見て、
「ぐうたらもんの爪は、よう伸びる」

学校から帰ってくると、
私はすぐに居間でごろごろと寝そべる。
丸くなっている猫と兄弟のように、
何をするでもなく寝転んでいた。
その姿に呆れるように、母は言うのだった。

爪を見てみると、確かに伸びている。
ふと、横で寝ている猫の爪が気になり、
肉球に隠れた爪を押し出すと、
鋭いカーブを描いて伸びに伸びているではないか。
「なんだぁ、お前もぐうたらもんだねぇ」
私の辞書に『反省』の文字はないのであった。

今も、なんだか爪が伸びるのが早いような気がする。
ヒゲも髪も、伸びるのが早いような気がする。
無精ヒゲをなで、伸びた爪を見ていると、
今でも母の声が聴こえてくるようだ。
「ぐうたらもんの爪は、よう伸びる」

マジシャンになっても、
私のぐうたら病は治らないままだ。
いや、むしろ重傷化しているのかもしれない。
それでも月日は過ぎ、
いつの間にか25周年を迎えて
キャッチ・コピーを考えたのだった。

『たいした芸もないのに四半世紀』

観客は、あははと笑ってくれた。
笑いながら大いにうなずく人もいた。

中には、ほめようとしてくれる人もいて、
「そんなこと、ないですよ。
 大した芸、ありますよ。
 たとえば、ほら、えぇ〜っと・・・」
残念ながら、やはり大したマジックは
見つからないのであった。

更に時が過ぎて
35周年を迎えた時のキャッチ・コピーは、

『まだやっているナポレオンズ』

これにも観客の賛同を得られ、
めでたし、めでたしであった。
ステージに登場した瞬間、
「この人たち、まだやってたんだぁ。
 それにしても、子供の時に見たまんまだぁ!」
そんなことに驚くより、
もうちょっとマジックにも驚いてほしかったのだが。

さて、今現在、38年目である。
そろそろ40周年のコピーを考えたいところだ。
「10年ごとだから、次は45周年じゃないの?」
というご意見もあるが、
さすがにそこまで持つかどうか。

爪もヒゲもよう伸びるぐうたらマジシャンのまま、
とうとう40周年間近。

ある師匠に話を聞いた。
「噺家になって、まずは噺を覚えて高座に上がる。
 経験を積むよね。
 そのうち落語でお金を稼げるようになる。

 落語が仕事になり、生活費を稼ぐために落語をやる。
 噺の出来不出来を気にもするが、
 それよりギャラの方を気にしたりする。
 背に腹は代えられないってやつだよ。

 うまく芸とギャラが正比例して伸びて、
 ひとり会をやればお客さんが大勢来てくれる。
 もう、生活の心配はなくなる。

 それからなんだよね、噺をどうやるかっていうのは。
 そこからやっと、噺家としての修業が始まるんだよね。
 稼ぎを気にすることなく、噺を研いでいく。

 時間で考えれば、師匠に入門して
 なんとか高座を務められるのに4、5年、
 やっとこさ食えるようになるのに10年、15年。
 
 お客さんがいっぱい来てくれて、
 商売繁昌となるのにもう20年、30年と過ぎちゃう。
 で、それから本当の修業を
 始められるっていうんだから、
 噺家っていうのも大変だよね。

 お前さんとこも、もうすぐ40年だって?
 結構だねぇ。
 めでたいねぇ。
 で、マジックで飯は食えてるんでしょ?
 なら、これからやっとこさ
 芸の修業も始められるってもんだ。
 
 いやぁ、お前さんもご苦労さんだねぇ。
 がっはっは」

キャッチコピーを考える暇があったら、
せっせと修業に励めということだろうか。
40周年のキャッチ・コピーは、未だ浮かばないままだ。

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2014-08-24-SUN
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