MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『夏の夜は』

やれやれ、
明日は沖縄に行かなければならない。
飛行機は、
羽田を午前6時25分に飛び立つ予定だ。

行程を調べてみると、
最寄り駅の始発に乗っても、
羽田に着くのは
6時くらいになってしまうではないか。

空港は広い。
急いでチェックインしてゲートに走って、
やっと間に合うか間に合わないか。

「結局、間に合いませんでした。
 本当に、すみませんでした」
そう言って謝って済まないのが
マジシャンの辛いところだ。
いや、マジシャンじゃなくてもそうなのだろうが。

とにかく、電車移動ではギリギリ。
そこで、タクシーで羽田まで行くことにした。
調べてみると、迎車料金無料という、
ありがたい会社があるではないか。

「えぇ、定額制というのもあります。
 その場合は、高速道を利用するという
 決まりがあります。
 指定の時間に、携帯にお電話しますか?」
タクシー会社の方の説明を受け、迎車をお願いした。
さて、これで充分に間に合うように羽田に行けそうだ。

午前4時40分にタクシーが来てくれる。
私は目覚まし時計を午前3時50分にセットする。
念のため、ふたつ、枕元に並べた。

いい歳こいたおじさんのすることではないが、私は、
「午前3時50分に起きるとなると、
 まぁ遅くとも午後11時には寝たいよなぁ。
 でもって、起きたらまだアルコールが残ってるとか、
 まだ酔っ払ってる、なんてのはみっともないから、
 早めに飲み始めて、さっさと寝ることにしよう」
と、私なりの計画を立てた。

夕方、まずはビールを飲む。
このところの猛暑、冷たいビールがなによりだ。
つまみは新ショウガのマヨ味噌和えと笹カマ。

ひとしきり飲み食いしたところで、夕食を準備する。
ショウガ、ニンニクをすりおろし、
醤油とみりんのタレに加える。
そこに、豚肉を漬けておく。
あとはフライパンで肉を焼くだけ、
つまりは豚肉のショウガ焼き。

ご飯に香ばしい肉を乗せ、豚肉ショウガ焼き丼の完成。
こいつを冷やした赤ワインとともにいただく。
ワインのおつまみにショウガ焼き丼というのは、
いささか奇妙かもしれない。
でも、私は食べ慣れていて、大好きな組み合わせなのだ。

腹いっぱいになり、少々酔っ払うこともできた。
あとは、ワインをゆっくり、ゆっくり。
つまみは、ショウガ焼きのタレに人参、
大根のスティックをつけてパリポリ。

早めに酔って早めに寝るという計算であったが、
今日は酔いがゆっくりのようだ。
そうだ、いただいた日本酒が冷蔵庫で冷えている。
ゴクリ、ゴクリ。
喉を鳴らして、飲む。

「今日はまだメールをチェックしてないなぁ」
独りごちてパソコンを開ける。
メールをチェックしてそのまま閉じればいいものを、
ふと懐かしい音楽を聴きたくなった。

モンキーズの『デイドリーム・ビリーバー』を聴く。
この音楽サイトには、
次々と関連した懐メロが表示されていく。
で、ついついエルトン・ジョンの
『ユア・ソング』を続けて聴く。

いい歳こいたおじさんなのに、
いや、いい歳こいたおじさんだから、
懐メロを聴くとつい涙が出る。
しかも、相当に酔ってきて、おいおいと泣く。

泣きながら『ダンシング・クイーン』、
『ウイ・アー・ザ・ワールド』、『ヘイ・ジュード』と
聴いては泣き、泣いては聴く。

ふと気がつくと、午前1時を過ぎている。
寝なければという気持ちと裏腹に、
私は次の懐メロを探している。
寝なければならない。
懐メロが心に沁みる、沁みる。

あぁ。
はたして数時間後、
私は無事に羽田に辿り着けるのだろうか?

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2014-08-10-SUN
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