MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『タタリじゃっ!』

怪談話を公演する時は、
あちこちの神社仏閣でお祓いをしてもらう。
もし、お祓いをしてもらわないまま
怪談話を公演すると、
必ず不慮の事件事故が起きる、
つまり、何らかのタタリがあると信じられているからだ。

「『真夏のJAZZ怪談』と題するお芝居、
 公演をするのですが、
 小石さんにも役者として出ていただけませんか?」
という、ありがたいお誘いがあった。

芝居にも大いに興味があった私は、すぐさま、
「はいはい、やります。
 ぜひとも参加させてください」
ふたつ返事で引き受けることになった。

連日、芝居の稽古が続いた。
私は、
「怪談をやるとなると、
 お祓いをしてもらわないといけませんよね。
 やはり、タタリは恐いですから」
と、話を振ってみた。

しかし、プロデューサーを兼任している俳優さんは、
「ふふふ、そうかもしれませんねぇ」
などと、まるで意に介していないご様子。

その時点の私はまるでセリフが頭に入らず、
間違えてばかりで共演者に迷惑をかけ続けだった。
俳優さんは、
「タタリの心配より、
 小石さん自身がタタリにならないようにお稽古、
 お願いしますよっ!」
という心境だったのかもしれない。

そろそろ夏の入り口が見えてきたかなぁと感じられる
7月のある日、公演は幕を開けた。

初日はまぁまぁの出来で、
やれやれと胸を撫で下ろす役者、スタッフであった。
2日目、まずは昼の公演が始まった。

私が舞台に登場、
「ようこそお越し下さいました。
 今公演は『真夏のJAZZ怪談』と題しております。
 怪談話となれば、
 各地の神社仏閣にてお祓いをしてもらうのが
 常識なのですが、今回はまったくしておりません。

 なので、皆さまになにがしかのタタリがありましても、
 当局は一切関知いたしません」

前日は、ここで笑いが起きた。
ところが、この日はまったく起きなかった。

私は焦り、続けざまに次のジョークを繰り出した。
「昨日、公演をし、今日が2度目です。
 昨夜はなぜか盛り上がりに欠けたので、皆で反省会を
 しました。
 それぞれ、
 『お前がヘタな芝居するからだ』
 『いや、照明と音響のタイミングが悪いんだよ』
 『ふざけるな、構成と台本が変だからだ』
 などと揉めましたが、たった今結論が出ました。
 昨日は、客が悪かったんです」

起死回生を期した渾身のジョークは、
あわれ観客の頭上を通過してしまったかのように、
無反応。
客席は真っ暗、誰もいないかのように
シーンと静まりかえっている。

私は、次のジョークにも自信が持てなくなった。
もう、話すのさえ恐くなっていた。
だが、いきなり職場放棄することもできない。
仕方なく、次のジョークを続けた。

「◯リンセス天功さんは、
 存在自体が怪談めいています。
 なんせ、もう何年も24歳のままなのですから。
 そうなると遠い将来、
 新聞の死亡欄に載るんでしょうね。
 ◯リンセス天功さん、老衰のため死去、享年24歳」

やはり、笑い声は起きなかった。

私は死人のようになりながらも、
「◯リックさんというマジシャンがいましてね。
 観客が選んだトランプを見ないで当てるんです。
 なぜかっていうと、
 アシスタントが後方で観客の選んだトランプを
 盗み見るんです。
 見えたら、小さなマイクに向かってつぶやくのです。

 ◯リックさんは、
 耳の中に隠してあるレシーバーで聴いて、
 『ハートの3です』
 と、見事に当てるんです。

 ところがその日はあいにく電波が乱れてて、
 よく聴き取れなかった。
 ◯リックさんは思わず、
 『えっ?』
 と、言ってしまいました」

覚悟した通り、笑いは起きなかった。

私は刀折れ矢尽きて、
「あの、これって、まぁまぁ面白い話だと思うんですが」
そう、思わずぼやいた。
やっと、かすかな笑い声が聞こえた。

舞台を降りた私は、袖で出番を待つ役者さんたちに、
「僕にタタリがあって、ウケなかったよ〜。
 ごめんね〜。
 皆さんは、がんばってね〜!」

役者さんたちは気にもかけず、初日よりも力強く、
生き生きと舞台を勤め上げるのだった。

夕方の公演では普通にウケて、笑ってもらえた。
役者としても、なんとか演じることができた。

他の役者さんたちも、納得の笑顔を見せていた。
私は、彼らの額に浮かぶ美しい汗を見ながら、
「必死の努力、たゆまぬ稽古を重ねた者に
 タタリなんぞは決して降りかからない。
 セリフが入って安心したり、
 少し演じられて慢心する者にこそ、
 大きなタタリがある。
 舞台の神様は、ちゃんと見ている」
そう、思い続けていた。

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2014-07-27-SUN
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