MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『映画・青天の霹靂』

映画『青天の霹靂』を観た。
僕は、おそらく目薬1本分の涙を流したに違いない。
観終わった瞬間、僕はこの映画を10回、
いや20回は観るだろうと思った。

かつて『ヨーロッパの夜』という映画があった。
燕尾服を着てハンカチから白いハトを出現させるという、
マジシャンのイメージを造り上げた伝説の人物、
チャニング・ポロックが出演している。

まだビデオという機械がない時代、マジシャンたちは
何度も映画館に足を運び、
ポロックのハトの出現マジックをマスター、
というかコピー、つまりは勝手に盗んでしまおうと
したのだった。
マジシャンたちは、マジシャンとして
生きる『手段』を求めて映画館に通い続けたのだ。

映画『青天の霹靂』にもマジシャンが登場する。
だが、マジシャンの生き様を描いているわけではない。

昨年の夏だったろうか。
マネージャーから、
「映画出演のお話をいただきました。
 小石さん、演技、できますよね?」
そんな電話があった。

『青天の霹靂』と聞いて、すぐに原作本を思い出した。
出版されてすぐ、購入して読んでいたのだ。
マジシャンの出てくる物語となれば、
僕もマジシャンの役で出させてもらえるのだろうと
考えた。
マジシャンだから、声をかけてもらえたとも思った。

「スナックの店長役をお願いします」
制作スタッフの方の説明を聞き、かなり戸惑った。
「マジシャンでは、ないのですよね?」
そう尋ねると、
「あぁ、でも、マジシャンのいるスナックの店長で、
 店長もマジックは少しはやります」

ふむふむ、となれば役者の皆さんに
マジックを指導する役目もありかなぁと尋ねると、
「マジック指導は摩耶一星さんたちに
 お願いしてあります」
マジックはちょこっと、指導もなし、となれば、
ただ演技のみということか。

衣装合わせの日、劇団ひとり監督と話せる時間があった。
「あの、ぐるぐる、やってもらいます。
 例の道具は使わない、ぐるぐる、です。
 それと、しょぼいというか切ないというか、
 そんなマジックって、ありますか? 」
僕は周章狼狽して、
「トランプのマジックで、
 タネが見えてて哀しいっていう
 マジックはどうでしょう・・・」
スタッフの皆さんから笑い声が起き、
監督は苦笑いを浮かべて、
「それじゃぁ、ない・・・かな」

撮影が始まり、僕は何度もNGを出した。
もう、数えきれないくらいに。
何度も何度もセリフを繰り返して稽古したのに、
いざとなるとセリフが出てこない。
それでも、何度目かの撮影でやっとOKが出た。
僕はついつい弱気になって、主役の役者さんに、
「僕は才能、ないです。
 もう、引退するべきかもしれません」
そう愚痴を漏らしてしまった。

それでも目出たく映画は完成し、
ついに封切りの日を迎えた。
完成した映画を観る前は、
僕はマジシャンの、人間の生きる
『手段』の難しさを描いているのだと思っていた。

見終わって、生きる『手段』の難しさではなく、
人間の『生きる理由』を描いているのだと感じられた。

僕は、『生きる理由』など考えもしないで生きてきた。
目の前にマジックがあり、
マジシャンという職業を知った。
マジックを覚え、練習し、受けるマジシャン、
売れるマジシャン、芸人になりたいとがんばってきた。
でも、求めてきたのは、
ただ生きるための『手段』だったのだ。

僕に、誰にも必要なのは、
生きるための『手段』ではなく、
『生きる理由』なのだと思い知ったのだった。

今度、劇団ひとり監督に逢えたなら、
ひとこと告げたいと思う。
「この映画を、せめて5年、
 いや10年前に製作してほしかった。
 そうすれば、僕は今よりもう少しマシなマジシャン、
 芸人になれたかもしれなかったのに」

映画『青天の霹靂』は、観た人の人生感を劇的に変えて
しまうかもしれない。


このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2014-06-01-SUN
BACK
戻る