MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『絶好調はどこにありますか?』

引き続き、マジックが不調である。
といっても、どん底とか
絶不調というわけではない。
生ぬるいビールのような、
熱々でない麻婆豆腐のような、
気持ちの悪い出来が続いている。

ホームラン狙いのスイングをしたのに、
当たりはボテボテ。
だが、それが幸いして
ヒットになったような感じでもある。

先日、収録があった。
最初のネタは、一輪のバラが
指をパチンと鳴らすと折れるという、
スカシ狙いのネタにした。
観客には、
「あぁ〜ぁ」
などと、がっかりしたり苦笑いしたりしてほしかった。
ところが、意に反して観客の反応は、
「えぇ〜っ!」
という、驚きだったのだ。

私は大いに困惑した。
なにせ、今までこのバラのネタで驚かれたことなど
ただの一度もなかったのだから。

私の狙いは、観客の嘲笑を浴びて、
「どーもすいませ〜ん」
と、明るく謝罪するという段取り。
それが素晴らしい演出とは思わないが、
私はそんなゆるいマジックが好きなのだ。

それなのに、観客はまるで
目の前で象が消えてしまったかのような
驚きの表情を見せたではないか。
観客の想定外の驚きに、マジシャンの私の方が
びっくり仰天してしまったという、
実にお粗末な一席になってしまった。

出番を終えて着替えながら、
ふと談志師匠のことを思い出した。
以前のこと、師匠の噺の途中で観客のひとりが
笑い声を上げた。
すると談志師匠が、
「なにが可笑しいかねぇ。
 ここは別に面白ぇとこじゃ、ねぇと思うんだが」
しばらく噺を中断してしまった。

確かに、笑う場面ではなかった。
なのに、なんだか分からないが、
「うふふふ」
と、不可解な笑いが起きてしまったのだ。

談志師匠と比べるべくもないが、
私もちょいと真似て、
「そんなに驚くネタかねぇ。
 このネタは、驚いちゃいけないネタだと思うんだが」
などと言って、しばし黙考したかった。

しかし、不調で良いこともある。
なにせお調子者の私のこと、ほんの少し調子が良いと
すぐさま有頂天になってしまう。
まぐれ当たりの反響であっても、
「はっはっは、いやぁ困ったもんだよ。
 軽いジャブのつもりだったんだけど、
 見事にKOパンチになっちゃって。
 ちょっと腕が上がったかなぁ、へへへへへ」
などと、思い上がってしまうに違いないのだ。

このところの不調によって、
私はずいぶんと謙虚になれている。
大爆笑、大反響など、望むべくもない。
小さく細かくギャグを繋いで、お客さまの笑い、
驚きをひとつひとつ拾うしかないと
気付くこともできた。
やっと、大人の芸人さんになれたのだ。

左右ふたつの目が更に上下に分かれているという、
不思議な魚がいる。
上のふたつの目で波の上を観察し、
下の2つの目は海中を見ているらしい。
海中も海面も同時に見られるという、
すごい機能を備えた魚なのだ。

しかしこの魚、荒波にはめっぽう弱いらしい。
波が荒れてしまうと、全部の目が波から出てしまったり
海中に入ってしまったりして、水平線を保つのが
極めて難しいのだ。

この奇妙な魚の、便利なような不便なような生き方を
想像し、妙にシンパシーを抱いてしまう私である。

私に付き合うように、パソコンも不調だ。
入れておいた音楽の一部が、
これまた中途半端に消えたり復活したり。
あれこれ試したものの、
ひとつ復活するとふたつ消えたりする。

こうなれば仕方ない、パソコンは少しお休みさせて、
代わりに電蓄にレコードかけて加山雄三さんの
『君といつまでも』を聴くことにしよう。

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2014-03-23-SUN
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