MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


『人の痛みを知れ』

朝起きて、どこも痛くないとホッとする。
体調も悪くはなさそうで嬉しい。

ちょっと前は辛かった。
お腹の調子は悪いし、肩はとても痛かった。
それに、珍しく耳鳴りもしていた。

寒い日が続いたから、
風邪を引いてしまったのかなと思っていた。
風邪を引くと急に弱気になる私である。
慌てて風邪薬を飲み、
肩にインドメタシン入りの薬を塗り、胃腸薬も飲んだ。
なのに、ちっとも具合は良くならなかった。

数日後、
「なんだ、すっかり忘れてたよ。
 風邪の症状、胃腸の不良も肩痛も耳鳴りも、
 この時期のアレのせいだったよ」
私はやっと気付いたのだった。

毎年、2月になると確定申告の季節がやってくる。
私はいつも、この時期になると
決まって具合が悪くなっていたのだった。

私は極度に、計算すること、数字が苦手である。
申告の時期になり、帳簿をめくりつつ電卓で
計算をしなければならない。

計算といっても単純で、1年分の接待交際費、
交通費、あるいは雑費などがいくらかを
電卓に入れるだけの簡単な作業だ。
それなのに、私の神経細胞は
激しく拒否反応を示すのだった。
そのストレスは、たちまち免疫細胞の数を大幅に
減らしてしまうらしい。

私たちの身体内では、毎日新たな良い細胞と
悪い細胞が作られていると聞いた。
良い細胞が多く作られ、悪い細胞が少なければ、
私たちは健康体でいられるのだ。

ところが、良い細胞はストレスにめっぽう弱い。
強いストレスにさらされると、
たちまち悪い細胞が台頭して良い細胞を駆逐してしまう。
免疫機能が衰え、悪いウイルスが増殖して
病気になってしまうのだ。

今のところ、私のストレス要因は
帳簿をめくりつつ電卓で経費を計算する作業のみだ。
この作業をすると、私の心身は
多大なるストレスにさらされ、たちまち絶不調となる。

この事実に気付いた私は、税務申告を税理士さんに
お願いをすることにした。
無論お金はかかるが、心身の健康には代えられない。
ところが、税理士さんは、
「やはり、ご本人様も一応の計算をしていただいて、
 大まかな収支を把握しておいてください」
などとおっしゃる。
仕方なく、都内在住の姪に
一応の計算を頼むことにした。
姪にも手間賃を払い、私はやっと例年の体調不良を
回避できたのだった。

普段、健康体の私は、傷み知らずである。
それゆえ、病気に伴う様々な痛みを
感じることなく過ごせている。
実にありがたいことなのだが、周囲の人々からは、
「小石は、人の痛みが分からない、ダメなやつ」
と糾弾されてきた。

そんな私も、税務申告のための計算のお陰で
体調を崩し、様々な痛みを感じることとなった。
私はやっと、人の痛みを知る人間になれたのだ。

このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2014-03-09-SUN
BACK
戻る